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『アルファベット・ハウス』(ユッシ・エーズラ・オールスン/ハヤカワポケットミステリ)

*結末まで触れています。


『アルファベット・ハウス』(ユッシ・エーズラ・オールスン/ハヤカワポケットミステリ)


1944年。英国軍パイロットのブライアンとジェイムズは急な任務を言い渡された。
特別写真偵察任務。
強風と雪の中、ドイツ軍が隠そうとしている何か、を写真撮影に行く。
低空で飛行するなか、砲撃を受けて二人は機体を捨ててパラシュートで脱出。
線路際までたどり着き、病院列車に乗り込むことができた。
重症らしき兵士を放り出し、ドイツ兵に成りすました二人。
彼らが入れ替わったのはナチの高官の軍人で、重症かつ精神を病んでいた。
高官ばかりを集めた施設に入れられ、喋ることもできず、二人は脱出の機会を
じっと待った。

戦時中、アルファベット・ハウスと呼ばれる精神科病棟。
ナチ。酷い治療。同室の男たちの仮病や駆け引き。
ジェイムズのほうは多少ドイツ語がわかるけれど、ブライアンはわからなくて、
でも二人で相談するようなことはできなくて、じりじりする。
その中で限界とばかりにブライアンは一人脱出し、それから28年後。

ジェイムズは生き延びていた。ずっと精神を病んだものとして。

これは戦争小説ではなくて、人間関係の亀裂についての物語である、と著者
あとがきにあるように、戦争の厳しい状況の中、そこで運命が別れた親友二人の
関係の物語。

これがデビュー作なんですね。特捜部Qより10年前。1997年の作品。
特捜部が好評で今頃翻訳になったのかな。2012年にドイツ語に、2014年に英訳、
とのことなので、やっぱ特捜部の人気で他のものも、ということになったのか。
日本語訳は英語から、ドイツ語も参照して、ってことらしく。デンマーク語
からというのは難しいのかなあ。なんかすごいなあ。なんにせよ読めて有難い。

じっくりじわじわ進んで、終盤で一気にぎゅっと集中して盛り上がるのは
最初から上手かったのね、と思う。けど、じっくりじわじわの前の方が結構
辛かった。状況も辛いしそれが延々と続くように感じながら読むのも。

逃げ出すことに成功したブライアンと、薬漬けになって精神病者として過ごした
ジェイムズとでは大違いで、でも仕方ないことだった、と、思うしかないのか。
もしも、もしも、と、もう少し何かが違っていたら、という無限の後悔がきて
辛い。
二人は再会できたし、ジェイムズは隔離状態からは逃れられたし。
脱出するまでに悪いやつらを殺す、とか、うーん。小説だし復讐しなくては
治まらないだろうし、だがしかし、という気もする。
ジェイムズはやっぱりブライアンをも憎む、のか。許したのか? すっきりは
しないけど、すっきりできることじゃないしなあ、と、思う。
二回は読みたくないな。ずっしりでした。

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