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映画「悪党に粛清を」

*結末まで触れています。


映画「悪党に粛清を」


1870年代、アメリカ。元兵士であるジョンは、兄と共に新天地を求めて
アメリカへ移住する。生活の目途が立ち7年ぶりに妻子を呼び寄せて再会。
これから共に暮らし始めるという時に、駅馬車に乗り合わせた男たちに襲われ
子どもも妻も殺される。ジョンもまたその男たちを殺した。
その男は、辺りの町を力で支配するデラルー大佐の弟であった。無関係な町の
人間を殺し、犯人を捜し出せ、と命じるデラルー。
ジョンは捕まり、それを助けた兄もまた殺される。ジョンには復讐しかなかった。

マッツ・ミケルセン主演。
デンマーク人の監督、デンマーク人主演。デンマーク・イギリス・南アフリカ合作
ということらしい。
デンマーク人が作る西部劇、という異色さ、というけれど、私自身が西部劇に
ついて詳しくないので、たっぷりオマージュがあるそうなんだけどわからず。
ダメな観客でごめんなさい。
とはいえ、物語はシンプル。全てを奪われた一人の男が、復讐を遂げるという
その一点に絞られている。
前半はだから、ジョンがとにかくズタボロに酷い目にあって、もー。辛い。
小さな町の人たちは、デラルーの恐怖の支配に反抗する気力すらない、ただ
ただ絶望している感じが凄い。一人の若者だけが、反抗しようとするんだけど、
だからジョンに協力するんだけど。けど、死んじゃうんだよね。。。

一応保安官はいて。ほとんどデラルーの言いなりだけど、あまりの状況にもっと
上へ、かなんか、とにかく助けを求めようとはしてた。一応彼が、わずかな、
微かな良心であり救い、かなあ。でもそうともいえないほどに何の力もない。
あの町の絶望感はほんと凄い。

これがデンマークスタイルということなのか、西部劇ってことなのか、セリフ
は極限まで少ない。
悲惨悲痛であっても、微かな悲鳴とか、無言で目を見張るとかくらいで、
誰も泣き叫んだりしない。銃を撃ちまくる確かに王道西部劇なんだけれども、
とても静か。その静かさに胸が潰れる。

捕まって吊るされてるところをやっとおにーちゃんが助けにきてくれて、
ジョンを隠して敵を引き付けていった兄の姿。次にジョンが見たのは、馬に
繋がれて土ぼこりを上げて引き摺られていく無残な兄の死。それでも無言。
無言でいるしかない。
もーほんとジョンから何もかも奪われていくのが辛い。そして復讐しかない、
ってなるのも辛い。
保安官は、妻子を殺されたからって相手を殺してしまわなければこうならなかった
という風に言う。それは正論だし、そうあるべきだったろうけれども。

駅に迎えにきてて、落ち着かない感じで列車を待って、やっと妻子に再会して、
かといって大仰に抱きしめ合ったりするわけじゃないの。ちょっと、少しだけ
笑うくらいなの。駅馬車に乗り込む前に、ほんとにそっと一瞬キスするの。
その清らかなうつくしさが素晴らしくて、ああそれなのにー。慎ましやかな
愛する家族との暮らし、を求めるだけだったはずのジョンが、デラルーの一味
皆殺しにするまでに至る苦しみが描かれていた。

月夜や雨の夜もうつくしい。見渡す荒野の圧倒的な広がり。
ジョンの家の、町の暮らしの貧しさ。ぎりぎりな感じ。

一方デラルーのほうは、あんまはっきりとはわからないけれど、その辺一帯、
どうやら石油が出るっぽいので、土地買い占めろ、って都会の会社かなんかに
雇われてるっぽい。そしてデラルーの弟が、攫われて舌を切られた女を救い
出して妻か愛人かにしてるマデリンといううつくしい女性は経理係?
喋れないけれどとにかくうつくしいから、結局弟亡き後デラルーにやられて、
嫌で逃げ出して、ってことになってた。
ジョンが仇であるはずだけれども、デラルー憎しの思いは同じで、最後には
二人で逃げることになる。

銃撃戦の緊迫感凄かったし、撃ち合いもかっこよかった。ジョンは強いけれど
でも超人めいた強さってほどでもなくて、また負傷する。
もうほんと、ジョンはどこまでボロボロにされるのか。辛い。
デラルー一味は倒したものの、正義は勝つ、って感じにすっきりするわけでも
なくて、なんかもうほんとズタボロ。
激渋い西部劇でした。


私はここんとマッツ・ミケルセンのことが大好きで、大好きで大好きで。
「ハンニバル」でハマったんだけれども、そのマッツ大好き熱にうかされて
いたころにマッツがこの映画のプロモーションで来日! というニュース。
新宿武蔵野館へ行ったさ。
舞台挨拶のチケットは瞬殺でとれなかったけどー。一目でも見たくて。
そしてほんとにちらっとは見られて! めちゃくちゃかっこよかった!!!
それが5月で。今月はその時の取材の雑誌がいっぱい出たのを買いあさって。
やっと映画公開になって見に行けたよー。
また武蔵野館へ行ったよー。
メッセージビデオのNGテイクも今だけ公開中、なんてのにつられてね。
くー。か、可愛い。可愛かった。しかしどこまで私はマッツに釣られるのか。
我ながら自分大丈夫か、と心配してしまうほど。
はー。
マッツかっこよすぎで可愛すぎ。当分熱は冷めないなあ。

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『ヴァイオリン職人と天才演奏家の秘密』(ポール・アダム/創元推理文庫)

*結末まで触れています。


『ヴァイオリン職人と天才演奏家の秘密』(ポール・アダム/創元推理文庫)

ヴァイオリン職人兼修復師であるジャンニ。物々しい警備で持ち込まれたのは、
パガニーニの愛器のグァルネリ・“デル・ジェス”だった。“イル・カノーネ”、
大砲という意味の名をつけられた貴重なヴァイオリン。エフゲニー・イヴァノフ
という、コンクール優勝者へのご褒美として年に一度弾くことを許される名器。
だが、エフゲニーが楽器の違和を訴え、ジャンニに修理の依頼がきたのだった。

で、コンサートがあって、エフゲニーとジャンニたちで音楽を楽しみ、そして
殺人が起こる。同じ主人公で二作目だけど、別にヴァイオリン職人シリーズ
というほどでもないのかな。まだ二作なんだろうか。
相変わらずじーさまであるはずのジャンニの大人、じーさまの余裕ってか魅力
が素敵。それと四重奏仲間で刑事のグァスタフェステ。ハンサムだけど草臥れた
中年男。なーんかグァスタフェステがセクシーで好きなんだよねえ。
ジャンニは前作で出会ったマルゲリータといい関係が続いているようでなにより。
んでもグァスタフェステがなんとなく甘えてたり世話やいたりやかれたりしてる
のがとってもいい。セクシー。と思うのは私が腐ってるからだろうか。なんか、
なんだろう。文体? 翻訳の感触? なんか、二人のシーンはほんと仲良し親子
風な相棒的なことだけなんだけど、なんかセクシーなんだよ。大好き。

エフゲニーの素晴らしいコンサートのあと。殺された男の持ち物らしいアンティーク
の金の箱の鍵が文字を組み合わせるもので、グァスタフェステがジャンニに助け
を求めることから、だんだんジャンニが深く関わっていくことになる。
パガニーニにまつわる歴史とか愛の物語とかに関わる宝物探しというところ。
200年前の伝説が今になって、という感じがとても面白かった。
私はパガニーニは名前知ってる程度だけど、いろいろ無理なく読ませられて
楽しい。
宝探しが、本当に宝発見!になるのはすっきりしてよかったなあ。
そして殺人事件もほどよく解決。
犯人と対峙することになって、ジャンニが「アントニオ!」っつって
グァスタフェステに助けを求めるのがもえる。
ジャンニはあくまでヴァイオリン職人。音楽を愛するじーさん。無理な格闘
始めちゃったりしないのがいい。ちょっと好奇心は強いけどね。
すごく好きなのでまだ続刊が出るなら読みたいなあ。

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映画「マッドマックス 怒りのデス・ロード」

*ネタバレ? 結末まで触れています。


映画「マッドマックス 怒りのデス・ロード」

大きな争いのあと、世界は荒廃していた。わずかな資源を支配するのは力だけ。
荒野をさまよう元警官のマックスは凶悪なイモータン・ジョーの一群に捉えられる。
体の不具合を抱える彼らの一人、ニュークスに血を供給するための、人間輸血袋
として閉じ込められてしまった。

そんなこんなで、マッドマックスのシリーズの4作目ってことになるこれ。
午後ローで、最初のからサンダーロードまでやってたのを見て、まあいろいろ
カットされまくりなんだろうけれども、ざっくりとは見直し復習はしていて、
でも新作を見に行くかどうかは決めてなかったんだけれども。あまりにも見た人
の評判がよくってやはり見に行ってみようと思った。
午後ローで見て驚いたんだけど、マッドマックスの一作目を私は見たことなかった
んだ。一作目だと、荒廃した近未来とはいえ、地続きな世界ではあった。悪い奴ら
も、なんか極悪暴走族だ!くらいな感じ。なるほど低予算なのかもしれないけど、
サスペンス映画って感じですごく面白かった。二作目になると一気にSFな感じ
というか、とても現実と地続きって感じはしなかったなあ。でもこれが、
マッドマックのスイメージとして強烈にあった。

で。
この最新作は、前作から27年ほどたってのようやくの完成ってことらしい。
撮影アフリカだそうで。
まさに荒野。果てしなく荒野。
そのだだっぴろい世界を突っ走るゴツゴツバリバリなゴタゴタ改造車たち。
ヒャッハー!
もーっ、何はともあれこういうのが俺たち大好き!!!という監督の情熱と愛
を感じて最高にかっこよくって痺れた。

マックスは、通りすがりのものなんだよなあ。旅人。異邦人。荒野の用心棒?
今回はほんと最初は囚われの身でまるっきり無力。
物語は、イモータン・ジョーから隊長として一軍任されているフュリオサ大隊長
のものだった。
子供の頃に緑の地から攫われてきた彼女が、いかに生き抜いて大隊長にまで
なったのかははっきりしない。けれど彼女は確かに強く生き抜き、脱出の機会
を狙っていた。同じようにイモータン・ジョーの子供を産むために閉じ込め
られていた女たちを助けて、故郷をめざす。
行きががり上、彼女たちと行動をともにすることになったマックス。
互いに何も語り合ったりはしない。
でも、言葉なんかいいんだよ。
戦う彼女たち、マックス、かっこいいよー!

とにかくもう、ただただ圧倒されてうっひゃーと目をみはるばかりでした。
すっげー。
すっげー。
かっこいいしかっこいいし、可笑しいし面白いし、可愛いし素敵だしほんっと
楽しかった。映画って、本当にいいものですよね!とこの映画に関わったみんな
とヒャッハーって言いながら力強く握手して回りたい気分。

セリフは少なくて、ほんとマックスなんか今回もほとんど喋らないし。
それでも力強く物語が伝わってくる。フュリオサも、産み女たちも。
イモータン・ジョーやその配下も。ニュークスも。
なんなんだろうね。こんなに最小限の説明しかないのに、いや説明ないのに、
伝わってくるものが凄く強い。かっこいい。
当然アクションすっごいし。
車もすっごいし。
ぎゃーんどわーんな音楽もすっごいし。なんだよなんだよなんでギター
鳴らして火が出るんだよオカシイよ何もかも!クレイジー!
面白かった~。
見に行ってよかった~。
トム・ハーディかっこよくて可愛いし。ニュークス、ニコラス・ホルトって
役者なのね、可愛いかっこいい覚えておかねばと思ったし。
シャーリーズ・セロン、フュリオサ最高だ。ボロボロでまっ黒でも美しかった。
戦いで傷付き死にかけた彼女に、マックスが輸血しながら、名前を教えるとこ
ではもううるうるになってしまった。
ジャケット取り返してから、あの輸血のチューブくっつけたままだな~と、
なんとなく目についていた。顔のすぐそばにあるからね。しかし最後にそう
使ってくるとはー。輸血袋ってのをこう効かせてくるとはっ。
ばーさんたちのしわしわの顔もかっこいいしねえ。
種。

ダメだ。たぶん深読みしたり世界観とかいろいろ読み取ったりできると思うけど、
どんな言葉連ねても足りないしなんかそれはまあともかく、ってことでいい。
なにはともあれ荒野をぶっとばす車や爆発に圧倒されまくってればそれでいい。
かっこよかった~。満足。

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『霊応ゲーム』(パトリック・レドモンド/早川書房)

*結末まで触れています。


『霊応ゲーム』(パトリック・レドモンド/早川書房)

1999年のロンドン。特ダネを得たいと思っているティムは客を待っていた。
40年ほど昔、カークストン・アベイ学園の事件を知っているはずの客の男。
そして彼は語り出す。まだ14歳、15歳の少年達が引き起こした出来事を。

てことで、英国、名門パブリックスクール、14歳の少年、という素敵な舞台で
起きた、少年たちのいじめや嫉妬や友情のもつれ、パワーゲームなお話。
そこに何か悪魔的な力が加わって。
すごく耽美少女漫画風味で楽しかった。

いじめられていた少年ジョナサン。誰とも友達になろうとしない孤高の存在だった
リチャード。生徒からも先生からも一目おかれ畏怖される存在だった彼が、
ジョナサンと友達になったことから学園内に不穏な出来事が起こり始める。
死と崩壊。

リチャードの嫉妬と独占欲が異常に強くて、リチャードに心酔していたジョナサン
がだんだん彼を恐れるようになり、助けを求める。
少年たちのそれぞれの事情が明らかになってきて、リチャードの心の闇もわかる。
母を亡くした哀しみ苦しみを誰も救うことができなかった。

ヴィジャ盤、降霊術みたいなのって、一応オカルトってことになるのかな。
こっくりさんみたいなことなんだよ、ね。それを使って遊んでみたことから、
何か悪魔的な力がリチャードたちに宿った、ってこと、で、いいのか。
ミステリな感じと思って読んだんだけど、どっちかというとオカルトな結末。
でもそれが本当かどうかはわからない。んー。
冒頭の、事件を知る客、は、ニコラスで、事件の生き残りの少年、てことね。
彼にも実はパワーが宿っているのか。わずかでも? 
本当は全部少年の集団のヒステリックな思い込みとも言えるし、でも実は
悪魔がー、っていってもいい、って感じかなあ。

いろいろもえるシュチュエーションではあったけれども、少年たちの心の傷が
丁寧に描かれていて、それがむしろわかりすぎてしまったなーと、個人的には
マイナス。
ともあれ、2000年に出た本、ですね。文庫化ってことで知ることができて
読んでよかった。

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『終焉の地』(ジョゼフ・ハンセン/ハヤカワポケットミステリ)

*結末まで触れています。


『終焉の地』(ジョゼフ・ハンセン/ハヤカワポケットミステリ)

ブランドステッターシリーズの12作目。シリーズの終り。

デイヴのところへ、学生時代の友人、ジャック・ヘルマスが訪ねてくる。今は作家
であるヘルマスは自分が死亡した、という噂に悩まされていた。デイヴにどうした
ものかと相談するが、どうしようもない。
そこへ、マッジからも相談が持ち込まれる。迷子の男の子を保護したという。
どうやらわけありの子供らしい、ということで、デイヴは事件に関わることになる。

もう引退するする、って言いつつ頼りにされちゃうと断れないデイヴ。
セシルがしきりに心配していたり、デイヴ自身も体調が悪い、すぐに疲れてしまう
という自覚がありつつも、家で大人しく寝ているなんてことはできない。

事件は、麻薬絡みの男が銃で殺された、その目撃者となった男の子、などなどで
本当は誰の銃が使われたのか、というのがなかなかはっきりしない。
デイヴが聞き込みにいったり、デイヴを訪ねてきたりの人物たちも、なんだか
年老いている人が多くて、ハードボイルドなシリーズで老境を語るってなかなか
不思議で面白かった。

しかしデイヴ、この作品では69歳なの? それでもハンサム青年に誘われて
しまうって、どんだけ素敵老人なんですか。ちゃんと誠実に断るのも、どんだけ
素敵老人なんだよ~。もちろんセシルが大事だもんね。

親切めかして引退した音楽家、ハイム・チェアノフの世話をかってでていた
アーサーが、昔の悪仲間で、仲間割れ的に殺した、ってことなんだけど。
老人を狙った詐欺っていうの、後味悪い。情がわいてて最後まで看取るつもり
になっていた、と、思わせるかのようで、すぐにセシルに財産を一人占めした
かったからだと言わせてて、甘くない作者だよなあ。

そしてデイヴの最期。心臓発作、かな。そういえばデイヴの父親もそうだった。
そして、物語は基本的にデイヴ視点なので、デイヴが意識を失っていく
ブラックアウトで終わり。
ヘルマスは大丈夫だったのか。セシルやアマンダがどんなにか哀しんだか。
全ては読者に委ねられて、そっけなく終わる。
一番最初の、献辞のページに、
「世界中のデイヴ・ブランドステッターの友人の皆様、 さようなら!  」
ってあったんだった。
これが最初で最後の挨拶だったのね。

訳者じゃなくて、柿沼瑛子さんがシリーズまとめの解説のようなのを書いて
あった。まとまってすんなりよくわかる解説だった。
この本は、本国では1991年に書かれたもの。ハヤカワのこの本は1993年発行。
1作目から約20年間で書かれた12作。物語の中の背景も時代も変わった。
そして今は2015年。また20年近くたっていて、また時代は変わってるかなあ。
おんなじような問題はやはりありつつも。世界は少しはよくなっていると、
思いたい。

結構時間かかったけど、シリーズ全部読んで満足。

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映画「エレファント・ソング」

*ネタバレしてます。


映画「エレファント・ソング」

水曜日に見てきた。

1966年。精神科病棟で一人の青年が院長に質問を受けている。
彼の担当の医師、ローレンスが行方不明になっていて、最後にローレンスを見た
のは患者であるマイケルなのだ。
病院の不祥事となることを恐れてグリーン院長は自らマイケルに話を聞く。
だがマイケルは、象の話ばかりしてまともに答えようとしない。まだマイケルの
カルテを読んでもいない院長に、マイケルは取引を持ちかける。
カルテを読むな。婦長は追い払え。ご褒美にチョコレートをくれ。
緊迫感のある会話が進む。退院させてほしいとかローレンス医師の秘密とか、
院長のことを逆に聞き出したりどんどん二人のことが明らかになっていく。
マイケルに翻弄されるグリーン院長。

もともとは舞台作品だったみたい。
グリーン院長が出来事を理事長へ報告している、という語りの中で回想的に
事件当時のことが刻々と語られていく。基本的には院長とマイケル、婦長と
マイケル、といった二人の対峙。マイケルに苛立つし翻弄されるし、でも不安定
なマイケルが愛を求める姿がわかってきて、だんだん彼を好きになる。
マイケルは不安定な患者だけど綺麗で魅力的な青年だ。
幼い頃に母に愛されてなかったこと。今も愛を求めていることがわかる。
ローレンスに性的虐待を受けていたかのように語るが、でも本当は愛してる。
愛して。
愛してるって。どうすればいいんだろう。

院長と婦長は元夫婦で、子供を亡くしてしまって今は別れていることがわかる。
本当なら悲しみを分かち合い支え合う二人であるはずなんじゃないの?
誰もが愛を必要としながらじっと耐えている感じ。

マイケルと父との思い出は、一度だけ会った時に、父は象を狩っていた、という
ことだけ。銃で撃たれて倒れる象。
マイケルは象を何よりもうつくしい生き物として愛している。

結局ローレンス医師は、家族の急病で慌てて出かけていったということだった。
書置きをマイケルが隠していたのだ。
事件ではなかったことにほっとする院長。
ともあれご褒美のチョコレートボックスをマイケルに渡す。
ナッツ入りチョコを選んで食べるマイケル。マイケルは実はアレルギーがあって、
これは自殺行為だった。
マイケルは、愛して欲しかった。プラトニックじゃなくて。
ローレンス医師に最後に院長が問いかけると、愛してました、と答えるんだよね。
だったらプラトニックじゃなくてー愛してやってよ~~。マイケルをしっかり
抱いて抱きしめて離さないでやってよー。(泣)
時代ってこともあるのかなあ。まあ医師と患者だしなあ。立場的にも手は
出せないかなあ。でもなあ。ちゃんと、抱きしめて、愛してると満たしてやる
ことができていれば。マイケルは死を選ぶことはなかったんじゃないかな。
それともそれでも、もうマイケルには生きることが限界だったかなあ。

グザヴィエ・ドランが、監督とかではなく、俳優として主演。激しさも切なさも
魅力だった。凄い。
グリーン院長もそれを受ける感じがすごくよかった。きれいな目だった。
家族、というのは小さな世界だけど、かけがえのないもので、重く苦しく、
切なくて、大切。隣に座って手を握るとか。そういう小さい、けれど確かな
ぬくもりが、マイケルにもあればよかった。だからローレンス先生よ。ちゃんと
愛していてほしかったよ。マイケルの望む形で。切ない。

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『弔いの森』(ジョゼフ・ハンセン/ハヤカワポケットミステリ)

*結末まで触れています。


『弔いの森』(ジョゼフ・ハンセン/ハヤカワポケットミステリ)

ブランドステッターシリーズの11作目。

ペイントボール・ゲーム。森の中で行う戦闘訓練ゲーム。
その最中、一人の青年が死んだ。ヴォーン・トーマス、彼はセシルと同じく
チャンネル3で働いていたので、セシルがその死について調べるよう、デイヴに
頼んだ。単なる狩猟の銃による流れ弾なのか、ゲームで使う実弾ではない銃が
何らかの意図で本物であったのか。
最初は乗り気ではなかったものの、ヴォーンが一緒に暮らしていた女性、ジェミー
が姿を消したことがわかり、彼女に危険が迫っていると感じたデイヴは彼女を
見つけ出し、守らねばと動き始める。

あとがきによるとデイヴは69歳になってるようだ。一作目から22年か。
もう引退、もう年だ、って言い続けてるけど、今回もがんばってた。
ショックだったのはマックス・ロマノが亡くなったということ。
デイヴがいつも食事に言ってた素敵なお店。ロマノももちろん年をとっていて、
まあそりゃ亡くなるかなあとは思う。デイヴがショックでご飯も食べないような
状態になっているのをセシルが元気づけるために、事件捜査へ気を逸らせた、
という始まりだった。
セシルよ、そんな方法でいいのか。危ないでしょーデイヴを事件にのめり込
ませたら。でもまあそれでなくちゃ話にならないし、元気になったのはなった
のでよかったのか。でも危ないでしょー。

黒人差別の根深さ、根強さみたいなことがあるところをまた淡淡と描かれて
いた。デイヴ自身は、ホモセクシャルであるとはいえ、社会的強者なんだよね。
ハンサムで金持ちで名声あって。だからこそフラットでいられる。
結局ジェミーは助けられず。
ヴォーンを殺したのは彼が強請ろうとしていた前の会社にいた男、オニール。
継母の会社なのね。なんか偽装して金をくすねていたのを分け前よこせって
強請ってみたけど殺された、って感じ。デイヴがいろいろ嗅ぎまわったこと
の中でも大したことなさそうなところが真相だったという。いろいろあった
けど結局金ね。金だよね。

今回はロマノの死とかその店がなくなるショックが印象に残る。跡継ぎの
はずの息子は店を改装してどうでもいい安っぽい店にしてしまおうとする。
ロマノのレシピを受け継いでいた大事なシェフは辞めて田舎へ帰るという。
最後。なんとデイヴがロマノの店を買ってオーナーになることになり、
シェフを呼び戻してめでたしめでたし、だった。めでたし、ってわけでも
ないかなあ。どっちにせよシェフもデイヴもすっかり年をとった、という
状況には変わりないんだし。でもだからこそ、馴染みの場所を失うことに
耐えられない、という辛さかな。もう少し、終りを延長させた一安心。
次でシリーズ終りらしい。
どうなるかなー。楽しみ。

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『エディに別れを告げて』(エドゥアール・ルイ/東京創元社)


『エディに別れを告げて』(エドゥアール・ルイ/東京創元社)


子供の頃に、楽しい思い出はまったくない。

という著者の半生の自伝的小説、なのかな。著者は22歳、この本刊行当時は
21歳、ということらしいので、半生、っていうのも憚られるほどの若さ。

北フランスの村で、村全体貧しい暮らしの中で、子供の頃から女の子みたいな
ことが好きだったエディ。男らしくワルであれ、という価値観の父親からは
うとまれ、学校ではいじめにあう。
近所の子供たちとAVを見た勢いで、同性愛行為に耽るも、親に見つかって愕然と
される。いつの間にがエディだけが悪いことになっている。
女の子とつきあってみようとして、うまくいく、自分の病気は治ったんだ、と
思いかけたが、結局できない。
貧しく粗暴な親、兄弟。
そこから逃れる転機は、高校入学で手に入れた。寄宿舎へ向かう旅立ちが、
何よりの希望となって終わる。

赤裸々に語る自伝、てことなので、書かれているのは大体はそうなんだろうな
と思って読んだ。ちょっと現代とは思えないような感じがするんだけど。
19世紀の小説、みたいな気分が、する。いや、まあ、今でもこんななのかなあ。
同性愛は当然差別されていて。階級差みたいなことからなにからもう全部、
ほんとにそんななのかなあ、と思ってしまう。私は恵まれた人生なのか?
当然小説だから、赤裸々な自伝、といったって、ある程度脚色はしてる、だろう
し、記憶がいつも正確な事実とは限らないし。と、思うけど。

貧しい暮らしの中から、それでも才能をもって抜け出す、という感じは、
映画の「リトル・ダンサー」をちょっと連想したけど、でもあの映画はほんと
素敵な物語で、父親も頑固で粗暴な男だったけどまっとうに息子を愛して
いたよなあ、と、思う。この本の父は、自分が無学無知であることに自覚を
持つことはない。というか、目をそむけて逃げているんだろう。
母親も頼りにはならない。
なんだかんだでそれでも教育のために子供を送り出したんだから、この印象より
はもうちょっとまともなのかなあ。
この本をどう受け止めていいのかわからない。

著者はすでにこの本の前にも論文? が刊行されているし、現在学生ながら
フランス大学出版で叢書の編集責任者となっているらしい。パリ在住、
哲学と社会学を学ぶ、だって。
エディ、という名前が、愛称とかじゃなくてそれが名前っていうことが
そんなにありえないことなのか、とか、私にはピンとこないことがあったりで、
いろいろと不思議に思いながら読んだ。

とても読み易いし、出来事は悲痛だけれども、すんなりとどこか冷静に描かれて
いて、今生きている若い彼がこういう思いを抱きながらここまできてるのか、
というのにひかれた。この先は、もう大人だし、生きやすくなるといいねえ。

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映画「誘拐の掟」

*結末まで触れています。


映画「誘拐の掟」

元警官、マット・スカダーは、免許のない私立探偵。時々人から頼まれたことを
して、贈り物をもらう。
アルコールを口にしなくなって8年。集会で知り合ったピーターから、弟の話を
きいてくれ、と頼まれる。ケリーのところへ行くと、彼の妻が誘拐され、殺された
という。犯人を見つけてくれ、という頼みだった。

これ、スカダーの10作目、「獣たちの墓」の映画化なんですね。
気づいてなかった。見逃さなくてよかったー。すごくよかった。傑作だと思う。
いきなりシリーズの10作目で映画? と思うけど、これまでにもスカダーは
映画化とかなってるのかなあ。よく知らない。
ともあれ、これはたぶん原作を知らなくてもこれ一つでちゃんとわかる感じに
うまく仕上げられているんじゃないでしょうか。私はもう読んじゃってるので
全く知らなかったらどうなのかっていうのはわかんないんだけど。

原作読んでるの2001年だったなあ。自分の日記を検索したよ。自分のための日記
がちゃんと自分に役立った。
エレインとかは全然出てこなくて、まあ、事件そのものに話は絞ってる。
スカダーが地道に聞き込みに回るし、幸運もあって犯人にも辿り着く。
事件そのもの、だけれども、描かれているのはスカダーの人生のひとときで、
TJとの出会い、つきあいの感じも凄く好きだった。
「同情するなよ」
と、お互いに言い合うの。このフラットな感じがすごくよかった。

ニューヨークといえばお洒落スタイリッシュスマート、ってイメージだけれど、
そうじゃないごちゃごちゃとした闇の暗さ、ドライさ、なおかっこいい、って
感じがすごく好きだった。

依頼人、ケリーは、麻薬ディーラー、かな。ピーターはドラッグでボロボロに
なってるのに、それを扱うケリーのほうは自分じゃ麻薬をやったりしない。
金持ち。ピーターのほうの弟への屈折、好き。イケメン兄弟だー。
ケリーをやってたのがダン・スティーブンスで、すっごい、すっごい、すーっごい
かっこよかった。つくづく美形だなあと感動的。うっとり。黒髪にしてて、
ますます青い目が綺麗で、悪人なのに隠しきれない上品さ。かっこいい~。
これは思わずマットも手をかしてしまうよな、と納得の儚さ。彼を見ただけ
でも大満足だ。

犯人は、サイコパスっつーか完全なる異常者。二人組、よく喋る方はまだ比較的
人間らしさがあるかもだけれども、無口なほうはただもう淡淡と怖い。
「羊たちの沈黙」が1990年くらい。で、なんか猟奇殺人とか流行ったよね
という感じなんだけど、その流れにのって、のことだったっけなあ。
スカダーものの中で倒錯三部作とかいってたんだよね。

この映画の中、1999年。コンピューターの2000年問題が、とか
マットは携帯もパソコンも使わない、TJは使うけど、とか、NYの街にまだ
あのビルがある、とか。時代もあるんだよねえ。
その頃、って私には普通に記憶あるし、だけど15年前っていったらもう
かなり前、でもあるなあと、感慨にふけりそうになる。

麻薬関係者狙いの犯人たちが、次に狙ったのは14歳の少女。
娘を生かしておく理由を与えるんだ。ってマットが交渉役になっての、受け渡し
とか。宣伝だと、この誘拐事件をマットが追いつめてって、って感じだけど、
なんか、その、宣伝の感じとは違うんだよなー。
やっぱりそこにいる人、その街を描く、という感じが、好きだった。
結局みんな悪人で。多くの人が死ぬ。少女が助かったのが救いだなあ。
マットは疲れ果てて。
街の片隅、しみったれたホテルの部屋で眠る。でもそこに、TJも眠ってる。
それが希望か、と、思った。
疲れ果てて哀しみと苦しみの中にあって、でも微かな希望がある。
うっかり見逃さなくてほんとよかった。


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『服従の絆』(ジョゼフ・ハンセン/ハヤカワポケットミステリ)

*結末に触れています。


『服従の絆』(ジョゼフ・ハンセン/ハヤカワポケットミステリ)


マリーナの船上生活者たちへ立ち退きの危機がせまっていた。所有者である
実業家、レ・ヴァン・ミンが殺された。容疑者は立ち退きに先頭きって反対
していたアンディ・フラナガン。彼の弁護人であるトレイシー・デイヴィスは
フラナガンが無実であると信じ、何か見つけて欲しいとデイヴに頼む。
仕事から引退するつもりでいたデイヴは、あまり期待しないように、と言い
ながらも、調査を始めた。

ブランドステッターシリーズの10作目。
冒頭デイヴは引退するから、という宣言した手紙をあちこちに送っている。
けれど、世話になっている弁護士グリーングラスの縁があって、断ることが
できない。
でも、やり始めたらやめられず、またなんか危険な目にあいつつ、やり遂げよう
としてしまう。引退なんかできない性分かなあ。
訳者あとがきによると、デイヴは65歳ってことらしいから、そりゃあもう
引退しなさいよー、と思う。セシルにどんだけ心配させるの。

えーと、事件そのものは、移民であり成功したヴェトナム人のもとで、働いて
いた従業員が密かに麻薬密売に手を染めていて、ということがわかってくる。
デイヴがなんとかうまくやろうとするものの、まー簡単にはうまくいかないよね。
やっぱりデイヴが突っ走るのがハラハラするし、周りともうまく連携とれて
なかったして、ほんと心配しながら読んだ。
死にたがりなのかデイヴ。もう引退してくれよデイヴ。ゆったり暮らせばいい
じゃないかー。

ヴェトナム人でありながらアメリカで成功した実業家。とはいえ、一家一族の
古い考え方があり、異質な存在としてある。
貧しい船上生活者がいる。
淡淡と、そういう世界の話を聞き秘密を暴いていくデイヴ。
デイヴは、金持ちだし名声もあるし。それなのに弱者の側、っていうのが
変わらずにある。これからはますます老いて、という問題も出てくるのかなあ。
シリーズはあと2作。楽しみ。

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映画「リピーテッド」

*ネタバレあり


映画「リピーテッド」


クリスティーンが目覚めると、隣には見知らぬ男。彼は夫だという。
クリスティーンは事故にあって、記憶が一日しかもたない。眠って朝が
くると、20代の頃の意識しかないが、実際には40歳。夫の献身的な支えが
あるものの、不安な状況にある。
電話がかかってくる。医者のナッシュと名乗る男が言うとおり、クローゼット
に隠したカメラを見つける。前夜、彼女が残した自分へのビデオメッセージ。
記憶をたどる助けになると、ナッシュにすすめられた方法だった。

クリスティーンがニコール・キッドマン。夫ベンにコリン・ファース。
ナッシュ医師がマーク・ストロングという豪華キャスト。
見知らぬ夫なコリン・ファースがいて、密かに助けになってくれるマーク・
ストロングがいるなんてステキ。というわくわくで見に行った。

実は事故ではなく、何者かに襲われて記憶をなくすようになってしまったと
いうこと、実は子どもがいたこと、夫とは離婚していた、などなど、いろんな
ことがじわじわとわかってくる。
毎日記憶なくしてるわけで、何度も目覚める堂々巡りのくりかえしなんだけど、
少しずつ事情が明らかになっていく感じから、夫だと信じていた相手が豹変。
内緒で医者にかかっていたの、あなたが守ってくれていたことに感謝するわ、
愛してる、みたいに言ったところで、その医者と浮気してたのか? と表情を
なくすベン。バシッとビンタするベン。その豹変の瞬間がすごくハッとさせ
られて、ぐっと一気に怖い!って世界が変わって、よかった。

コリン・ファースが、優しい夫でクリスを見つめたりする時には大きな犬みたい
に可愛い目をしてて、それが表情なくしていくさまがぞくぞくきて凄い。
好きだ~。
そうなると、コリン・ファースって体大きいよね、と、怖くなる。
かっこいい。
実は夫じゃなくて愛人のほうだった、ってことなんだけど、クリスティーンが
浮気者だったのか。。。というのがわかる。
もちろん絶対的に独占したがり暴力をふるい、殺しかけるってゆーマイクが
悪い怖いわけだけど、クリスティーンてば。。。そんな男とうかつに浮気して
るんじゃないよー、と、ちらっと思ってしまうのよね。
逆ギレしちゃうマイク、キレるその感じがわかるっていうか。

ナッシュ医師が助けてくれることにしなっと容易に転移?して執着見せるのも、
クリスティーンがどうにも男にだらしないんじゃないかっていう気が、する。
ナッシュ医師がまともな人でよかった。
最後に出てきた本当の夫は、生真面目に愛してるっていう感じみたいで、
でも、あーでもコリン・ファースのがいいわ~、って、私個人の好みでは
思っちゃいましたっ。もちろん殺されるとか嫌だけど。
感動の息子との再会だったけど、どーも、そんなには感動しないというか。
やっぱりコリン・ファースが好きで彼のほうに同情してしまう。いや、コリン
じゃなくてベンでマイクなわけで、あんな男最悪なんだけどねえ。

さっくり短くまとめられていて面白かった。なんでこうも豪華キャストなのか?
と思っちゃう佳作な感じがするけど。
コリン・ファースとマーク・ストロングの対峙するシーンは一回だけ、ちょっと
だけだった。もうちょっと絡めばいいのに~、と、個人的要望が。。。
でもコリン・ファースのいろんな顔が見られてよかった。

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