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『繊細な真実』(ジョン・ル・カレ/早川書房)

*結末まで触れています。


『繊細な真実』(ジョン・ル・カレ/早川書房)

外務省でこれといって目立つことのない地道なキャリアを積み重ねてきた男。
ある日気鋭の若き大臣に呼び出されて、君の名前はポールだ、と決められる。
極秘の作戦に、大臣の耳目として参加してほしいという要請だった。
ポールは作戦を見届け、だが実際何がどうなっているのかはっきりしないまま
終わる。そして次のキャリアへ。
トビー・ベルは大臣の秘書官として勤務していた。まだ若く野心あるトビーは
密かに大臣の行動を監視する中、不審な動きに気づく。
だがどうすることもできないまま移動。
そして三年後。その<ワイルドライフ作戦>で実は無関係な女と子どもの血が
流されたということを、ポールは知ることとなった。

ル・カレの新作。
今この国際情勢の中という感じが凄い。ル・カレじーさまは80すぎてるのに
まだこういうキレキレな感じが書けるんだ。ほんとに自分でー?もはや書くの
と呼吸するのと同じみたいになっちゃってたりするのかなあ。不思議。

現在形で淡淡とつづられていく出来事。臨場感。やっぱり最初の方は何が起きて
いるのかわからないし人物たちがなんだかわからないし、ただ黙々と読み進める
しかなくてややつらい。でもそう油断してたら、はっとびっくりして息をのむ
シーンがきた。もうホント、文字通り本当に息をのんでしまった。
クラブにジェブが現れたところ。キットと同じくびっくり。ああ。油断ならない
んだったよほんとに。

それから、ジェブがあの作戦行為は完全に失敗だったという話をして、キッド
とその妻はそんな作戦を隠しておくなんていけない、となって、事件を明るみ
に出そうとするんだけど。トビーも協力して。
いろいろくねくねと邪魔されたりジェブは殺されたり、誰もが彼らをやめるよう
説得を試みたり。そのくねくねとした感じが凄く面白かった。リアルっていうか
そういうことのリアルなんて私は知らないんだけれども。リアルだと思わせられ
る。凄い。

でもそんなのほっときなよ、とも私は思う。キットもトビーも自分の身の安全
だけ考えればいいじゃない、と思うんだけど。正義感?うーん。私がダメ人間
すぎるんだろうか。。。こういうささやかだけど一人ひとりの高潔な行為とか
凄いなあと思う。

で。トビーを諜報活動っぽいことに引き込んだ、けれど放り出したジャイルズ・
オークリーね。終りの方で突然ゲイらしいとさらっと突きつけられるんだけど。
びっくり。ジャイルズ切ない~、と、そういう視点でもう一度考え直したり、
なんかもうほんと、びっくり。いやびっくりしてる場合じゃなくて、そういう
のが当然の如くある社会と思って感動した。だから好きなんだル・カレ作品。
この突き放しっぷりにふるえる。
そのことに気づいた時にトビーがそのことを察せられなかったことに苦悩する
シーンにはうたれた。

 自分は娼婦だ。
 知らなかった。
 知っていて、彼に媚を売った。
 知らなかったが、察するべきだった。
 自分を除いて、みんな知っていた。
 そして、いちばん数多く聞こえたのは――ハンブルクからこのかた、自分は
 どうしてここまで愚かだったのか。人はみなそれぞれに欲望を満たす資格が
 あると己に言い聞かせて、結局ジャイルズひとりを傷つけてしまった。(P317)

こんなでありながら、同時に情報を考え直してたりして、もー。
そんなこんなでトビーはワイルドライフ作戦をマスコミに流した、という所で
終り。で、どーなったの、ということは何も書いてない。相変わらずやっぱり
読み終わったところで放り出される。たまらん。
はー。面白かった。

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