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『ネルーダ事件』(ロベルト・アンプエロ/ハヤカワポケットミステリ)

*結末まで触れています。


『ネルーダ事件』(ロベルト・アンプエロ/ハヤカワポケットミステリ)


カジェタノ・ブルレは私立探偵。南米チリに1971年にやってきたキューバ人。
今はそれなりの成功をおさめている。その探偵としての初めての仕事は、チリの
国民的詩人、ノーベル文学賞詩人であるパウロ・ネルーダのために人探しをする
ことだった。

現代、50代半ばらしいカジェタノの回想として始まる物語。私立探偵で人探し
ではあるけれども、ミステリという感じよりは、とんでもない詩人に振り回され
る若者が探偵になっていくお話、かなあ。探偵もなにも、ただ無職の若者を見込
んで、金も名誉もある詩人が人探しを頼む、しかも探偵として見習えと渡すのは
シムノンのメグレ警視の小説数冊、という。
それなのに、カジェタノは結構真面目に仕事をこなし、ついには探し人と出会う。
見つけたというより見つけられた、という形で。

私はチリのことは何にも知らない。こんな革命の歴史があったことも、ネルーダ
という実在のノーベル賞詩人のことも。
あとがきとか見たり、ぐぐってみたりして、ネルーダって実在の人物なんだあ、と
思った次第。詩人で政治家で大統領と友人で、なんか、なんか、とんでもない。
この小説の中の人物像は、女をとっかえひっかえみたいな感じで、おいおい、と
思うけど、魅力なんだよなあ。

ネルーダは癌におかされていて、昔薬草での癌研究をしていたらしい医師を探し
てくれ、とカジェタノは頼まれる。でも実は、それは医者ではなかったらしい。
本当に探したいのはその妻らしい。本当の本当に知りたいのは、一時のロマンス
を結んだそのうつくしいベアトリスが産んだ子供が、実は自分の娘なのではない
だろうか、ということだった。と、だんだんネルーダの頼みの中身がわかって
きて、カジェタノはメキシコ、キューバ、東ドイツ、ボリビアと各国尋ねて回る
ことになる。
1970年頃のそういう国の感じとか、まさに軍事政権、革命に揺れているチリ
とか、いろんな事情が描かれていて面白かった。よく知らないよくわからない
ことばっかりで、なかなかスムーズに読み進むことができなくて、読み終わるの
にすっごく時間がかかってしまったけど。

終盤、アジェンデ大統領がヘリに乗ってネルーダのうちを訪ねて立ち寄ったり
するあたりから、なんだか自分でも謎の感動でうるうる泣きそうになりながら
読み終わった。ネルーダがいよいよ死にそう、っていうのもあるし、チリが
大変なことになってるっていう感じとか、なんだろう。じっくりカジェタノに
つきあって読んでいるうちに、そんなに面白くて夢中ってなってないのに、
本当に彼らの死に泣いてしまいそうだった。ネルーダとんでもない人だ、と思う
のにかっこよかったなあ。

カジェタノはシリーズものらしく、作品はいくつもあるみたいで、でもこれは
カジェタノ最初の事件ってことだからこれだけで読める。カジェタノの探偵譚
というよりは、ネルーダとチリやその頃の社会情勢みたいなお話でもあるし。
読んでみてよかった。

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