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『二度のお別れ』(黒川博行/文春文庫)

*結末まで触れています。


『二度のお別れ』(黒川博行/文春文庫)

銀行強盗の男が、たまたま居合わせた正義感の強い客の男を撃ち、そのまま
人質として連れ去った。融資の相談にきていた、小さな工場経営者の垣沼。
やがて、垣沼の小指を添えて脅迫状が届く。身代金の要求は一億円。

てことで、犯人に振り回される警察の話だった。
黒川さんのデビュー作。単行本は昭和59年だそうだから、1984年かな。
文庫は1987年刊。
第一回サントリーミステリー大賞の佳作だったそうで、それを書き直しての
デビューってことでしょうか。

会話が面白くて最初からさすがだったんだな~と思う。警察の捜査の様子も
丁寧に詳しく追ってって、結局は迷宮入り。後年、犯人から電話がきて、
回想的にこのレポートを書いた、っていう形。なるほどーと思う。
なんか、グリコ森永事件で参考にされたんじゃないかとかなんとかあったらしい。
小指や耳を送り付けてくるとか手紙の感じとかいうことなのかな?事件の舞台
が北摂あたりで、みたいなのも関係あるのかな。あの事件もなあ。

結局はシンプルに、誘拐殺人事件に見せかけて身代わりの銀行への恨みの犯行。
最後に種明かしを語られればなるほどってなるし、警察が振り回されてしまった
っていうのもなるほどって思うし、面白くよく出来てる~と思った。
妻が共犯だったわけだけど、その後まともな暮らしになれなくて娘つれて自殺。
男もまた絶望して明日死ぬ、その前にあんたに話しておきたい、っていうの、
なかなか辛い重い結末だった。
地道に生きてきた男がついうまいこと完全犯罪成し遂げてしまったけれど、
死んだことになってそれで新天地とか行って痛快に生きて行くことなんてでき
ないんだよな。。。もともとが悪人で高跳びするあてがあるとかなんとか、
犯罪しても折れない心があるかどうか、とか。そういう点ではとってもまっとう
な夫婦であったがゆえの結末。警察に捕まってしまったほうがよほどよかった
のに。警察~~。無能な警察の罪でもあるよ。。。

妻が戻る故郷が愛媛で、今治で。タオル工場でつつましく働くものの、ってのが
あ、愛媛出身ですよね、今治といえばタオルですねと個人的にはおっ、と
思った。今治タオルは今は素敵ブランドになってるけど、このころだとまだ
あんまりいいものとして定着はしてないんじゃないかなあ。なんて思ったり。
辛い。

ただ面白いだけじゃなくて、こう、ぐっと暗い重いところがあるのが、この
最初の作品からもわかって、読んでみてよかったです。


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