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『真夜中の相棒』(テリー・ホワイト/文春文庫)

*具体的内容、結末まで触れています。


『真夜中の相棒』(テリー・ホワイト/文春文庫)

ヴェトナムの軍隊時代に出会ったマックとジョニー。どこか心を病んでいる
らしいジョニーをほっとけなくて面倒を見るマック。ひたすらマックを信じ
ついていくジョニー。
ギャンブルの負けが続きやっかいな相手に目を付けられ、ついには命じられる
ままに人殺しを請け負うようになる二人。
ある時、ターゲットの側にいた予定外の人物も一人殺してしまった。

前々から名作というか、名前は知っていた作品。今、新装版が出ていて、
そっかあ、読んでみようかなと思って今更ながら読みました。1984年
の文庫本。
もうね。
切なくて苦しくて哀しくて愛しくて。本当に名作だ。傑作だった。今まで
読まずにいたなんて自分のバカ。でも今読めて幸せだ自分。
原題は「トライアングル」だそうで。
マックと、ジョニーと、姿の見えないうちから彼らを追う執念の刑事サイモン
と、濃密な三人の男たちの物語。

BLだジュネだというとわかりやすいんだけど、そういうわかりやすいところ
にいけなかった苦しさがある。今現在なら、同性婚も認識されるようになって
きている。同性愛ということを知る機会は増え禁忌のイメージもかつてよりは
和らいでいると思う。
マックが、もしももっと早く、もっと素直に、ジョニーと愛し合っていると
自覚すれば、もう少し違う風になれるんじゃないのか。
愛してる、と、そういうのはもうほんと、最後3部になってからなんだよ。
女を抱きながらジョニーを思っていく。それでも、なんでだかわからないんだ、
という。
別に体をつなげるだけが愛じゃないし、せっくすする関係になればそれで
すべておっけーなわけはない。だけど、愛してる、って、かけがえのない
相棒として愛してるって、自分の気持ちを知ることができていたら。
もうちょっと早く満たされたのかもしれない。
でも、それでもダメだったかもしれない。。。

強いわけでもないカードゲームをずるずるとやめられないマック。
こんな生活をやめたいとか、俺みたいな奴と一緒じゃなかったらジョニーが
人殺しになることもないのにとか、安っぽい反省は何回もしてるのに、
立ち直れないマック。ジョニーを大事に、大事に大事にしてるのは本当で、
ジョニーもまたマックだけを心から愛してるのも本当で。マックのいう事
ならなんでも聞くし、マックのためならなんでもする。マックの側にいられる
のなら他のことは何にも気にしない。テレビや映画を見て、アイスクリームや
コークやオレンジジューズがあれば嬉しい。
それだけ。
ただそれだけ。

潜入捜査でマックたちのターゲットの側にいたために、殺された刑事、マイク。
その相棒だったサイモンは、マイクを殺した犯人をあげるより重要なことは
ないと信じて、警察署内でさんざんにたしなめられるのに、一人捜査を続ける。
その妄執に、まともでないと判断されて、仕事を失い、妻子とも別れ、
マイクの妻にも、生前マイクもサイモンの思い込みを心配していた、なんて
聞かされて、自分が信じてきたことはなんだったのか、崩壊しそうになる。
そして、ただ殺人犯を追い続け、いつしか殺人犯に執着するために生きると
いう状況になる。
サイモンもね。相棒としてのマイクがそれこそ他の何よりも誰よりも大事で、
それを愛だと、知れば、もうちょっとどうにかなれたのではないかと思うん
だけどなあ。名前のつかない感情というのが一番やっかいだと思う。
名前のつけられない感情。大きすぎる感情。想い。どうにも処理しようの
ないものになって自分が押しつぶされてしまうんだと思う。
恋愛なんだ。ってなってしまえば、傾向と対策を考えていくこともできる
じゃない? でも、自分にもわからないんだ、という思いを延々抱えて
まっとうに生きるのは難しい。

ついにマックとジョニーに辿り着くサイモン。そして、マックは殺され、
ジョニーを連れ出すサイモン。
ジョニーは心が殺されたように、泣き止んだあとサイモンに従う。
サイモンは、自分の孤独を分かち合えると信じたのは殺人犯ジョニーだけ
なのに、ジョニーの心はもうない。
サイモンの孤独。
いっそう深まる孤独。

ジョニーが、昔犬をかっていて、大事にしてて、でもジョニーを罰するために
犬まで殺されてしまった、というエピソードが前のほうで語られるところが
あった。そのあと別の犬をもらったけれど、それは別の犬だから。もう
大事にしなかった、と語ったジョニー。
ジョニーは、心を病んでいるというか、頭弱いのかなという感じだけど、
ジョニーの中での愛や信念はその分まっすぐで揺らがない。
マックの代わりなんていない。
サイモンはジョニーと愛し合えない。
相棒を失って生き残ってしまった絶望の男たち。
まっとうに生きるとか、生活するとか、アイスクリームやピザだけじゃなくて
料理を作るとか、哀しい苦しいだけじゃない愛してるということ。そういう
ことに彼らの目を向けさせてやりたい。
でも、それを自分のこととして考えられないんだろうなあ。

ヴェトナムの体験というのが、アメリカを薄闇で覆う病としてあった時代
なんだなあと思う。やりきれない。

マックを失った後にも、ナット・キング・コールの<モナ・リザ>の曲を
ジュークボックスでかけ続けるジョニー。マックが好きだといったのを
覚えてるから。マックに、曲をかけてくれてありがとうよ、って言われた
ことがあるから。
それは別に本当にマックが大好きな曲というわけじゃない。ヴェトナムで
なんとなく思い出した曲。二人が出会ったころにその話をした曲。
ジョニーの心にいるのはマックだけ。

いつまでも殺し屋を続けていけたわけじゃない。どちらかが死ぬとか、
二人とも野垂れ死にとか、遅かれ早かれなっていただろうけれども、でも
二人で愛し合うことができたんじゃないかという気持ちがどうしても残る。
しかしサイモンの妄執も孤独も切ない。
読んでよかった。

「天使が隣で眠る夜」というタイトルで、フランスで映画化されたみたい。
でも設定がかなり変わってるみたい。ん~。見てみたいような、でも見たく
ないような。この本のこの感じを、このまんまでうまく映画化してほしい
けどなあ。
テリー・ホワイトの他の作品も読んでみようかな。

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