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『夜の片隅で』(ジョン・モーガン・ウィルスン/ハヤカワ文庫)

*結末まで触れています。

『夜の片隅で』(ジョン・モーガン・ウィルスン/ハヤカワ文庫)

ジャスティスは元新聞記者。ピューリッツアー賞をとったことがある。だが、
そのドキュメンタリー記事はでっち上げだったと発覚して、賞は返上。記者
として働くことはなくなり、ひっそりと暮らしていた。
ある日、かつての上司ハリーが訪ねてくる。ゲイバーの表で起きた殺人事件。
被害者ビリー・ラスク。その場にいた少年が自白。単純な事件だが、新人記者
に書かせる記事のサイドバーに、ちょっとした深みのある記事が欲しいと頼ま
れた。最初は断るジャスティスだったが、犯人という少年をニュース映像で
見て気が変わる。ギャングには見えない彼の目には恐怖があった。

この文庫は2002年刊行。最初出たのは1997年かな。
エイズのこと、ゲイコミュニティのことゲイバッシングのことなどが背景に
あって、ハードボイルドミステリであり、ゲイノベルであるってところか。
シャスティスがゲイで、恋人をエイズで亡くしている。ゲイの権利みたいな
のはエイズの恐怖の中バッシングにさらされていて、でもそれなりに幸せや
コミュニティを築いている街。

新人記者が若くて美しいテンプルトン。学生の頃はシャスティスを尊敬して
いて、んで今、ジャスティスを誘惑にかかる。ゲイだっつってんのにあから
さまに誘惑してかかるのってなんなんだろう。自分に自信のある女で、誘い
にのってこない男が許せないのか? ジャスティスの過去を調べ上げたり
許してあげようとしてたり、かなりイラっとくるヤな女だったなあ。正義感
と親切心と好奇心に溢れた若者像なんだろうか。むかー。

ジャスティスもまったく聖人君子なわけはなくて、記者として知りたいんだ、
ってことで他人のプライベートにずかずか入り込む。議員の息子ポール。
父のスキャンダルを暴いたジャスティスに悪気はないにしても、ポールは
犠牲者だったろうに、と、思う。
被害者ビリー・ラスクが、顔はきれいだけど恐喝者であったクズじゃん、と、
人物像がわかるにつれて悲しくなってくる。
ゲイであることをオープンにできないことがゆすられるネタになってしまう。
ポールも可哀想だと、同情の余地はある。でも、無実の少年を犯人にした
ままではいられないよなあ。
事件が解決して真犯人がわかっても、すっきりとはできないやるせなさ。

ラストシーンで、ジャスティスはポールを追いつめておきながら、泣き出し
たの腕を撫でる。

「あと数分で警察官たちが現れて彼を連れ去るだろう。それまでは、彼は
私のものだ」

と終わる。
なんとも残酷でうつくしい。うっとりした。

出てくる全員がどこかしらなにかしらゲスな嫌なところのある奴で、哀しい。
死んだ恋人とか、家主の老カップルくらいかな、清らかに描かれているのは。
ジャスティスの過去、かつて父を殺したことも、恋人の最期をきちんと看取る
ことができなくて逃げていたことを償うように理想のエイズにかかった恋人
たちの記事をでっちあげてしまうのも、酷いけれど哀しい。
きれいごとで終わらないのが魅力的だった。

解説で、『闇に消える』(ジョセフ・ハンセン)という作品があるのを
知った。1970年に書かれた、これもゲイが主人公のハードボイルドな
のね。シリーズだそうで。読んでみたい。
この本のもシリーズで出てるみたいだけど、翻訳されてるのはあと一つ
だろうか。読んでみる。
昔は海外ものが苦手であまり読んでなかったから知らないのばっかりだなあ。
今読めてよかった。

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