« 『夜の片隅で』(ジョン・モーガン・ウィルスン/ハヤカワ文庫) | Main | 『好きの鼓動(ビート)』 『プライドの欲望』 『高慢な天使と紳士な野蛮人』 »

『虚飾の果て』(ジョン・モーガン・ウィルスン/ハヤカワポケットミステリ)

*結末まで触れています。

『虚飾の果て』(ジョン・モーガン・ウィルスン/ハヤカワポケットミステリ)

ジャスティスはテンプルトンと共にパーティに参加した。脚本の書き方を
教えるキャントウェル・メソッドで名をはせたゴードン・キャントウェル
が開いているパーティ。テンプルトンはハリウッドの裏話を特集する雑誌
の記事を書くためにジャスティスに手伝ってほしいと頼んできたのだ。
自分を、脚本を、売り込みコネをつかみたい人々で賑わう中、一人の若者
が死んでいるのが発見される。
HIV陽性だった彼、レイモンド・ファーは病死だろうと判断されるが、
ジャスティスは何かおかしいと感じていた。

シリーズの二作目。
ハリウッドって。ロサンゼルスって。虚飾の街なのね。
今回も、実は殺された青年はHIV陽性にも関わらず男女かまわず寝ていた
とか、自分を売り込むために嘘を重ねていたとか、なかなかゲスな人間だと
わかってくる。
ジャスティスは、レイモンドとルームメイトだったダニエル・ロメロに心
奪われて、疑いをもたれた彼を助けるべく、秘密を探っていく。
ダニーのためなら他の人間への思いやりなんてないのね。ジャスティスは
ほんと嫌な記者魂だと思う。自分が大事に思うことのためにはそれ以外の
人のことは踏みにじるよねー。ダニーには助かって欲しいけど、とばっちり
な他の人たちが気の毒。。。と思いながら読んだ。それぞれにそれなりに
後ろ暗くて、ああやはりみんな虚飾の中、という、ドロドロさがいい塩梅。
面白かった。

エイズで死なせてしまったかつての恋人ジャックのかわりのように、ダニー
にのめりこむジャスティス。死に向かうダニーから逃げ出そうとしたり、酒
に溺れかけたり、ジャスティスは実に弱い。
体だけの関係をローレンス・ティールと重ねて手っ取り早く欲望を満たして
情報を横取りされるようなヘマをしでかしたり。
余計な詮索のせいで車で殺されかけたり。
ジャスティスは正義のヒーローじゃない。

脚本を盗んで二つの殺人を犯すことになったキャントウェルを追いつめた
ものの、死なせてしまう。ジャスティスの勝手な行動が死に追いやった感じ
で、なんだかなあと思う。でも、警察小説ってわけじゃないし、捕まって
スキャンダラスに書きたてられるより、さっさと死んでしまったほうがいい
のか。。。ハードボイルドやのう。

ダニーの最後の願いをかなえ、星を見ながら死ぬ助けをするジャスティス。
やっと、ジャックの死から逃げた償いをする、って感じなのかなあ。これは
これでとても切ない。ヒーローなんかいない。寂しくて苦しくて切ない。
刹那の愛だと思う。ダニーのために、ジャスティスがいてよかったと思う。

これ、シリーズはまだあるみたいなんだけど、以後の翻訳はどうやら出てない
らしい。
結構あからさまにゲイライフというか、せっくすしーんがあるので日本に
合わないのか、みたいなことらしいけど、もったいないなあ。
ティールとの即物的欲望だけの手っ取り早いセックスは、ええのかそれでー、
といいたい気はするけど~。リバーシブルか、とか、いきなりSMか、とか
もえた。ディラン・ウィンチェスターだっけ、隠れ家にしてるところでの
謎の美少年ハーレムみたいな牧場シーンとか、何そのえろ妄想な場所は!? 
と面白かったけど。

この本は1999年。
そろそろ日本でもゲイへの敷居は下がってきてるんじゃないのか。まだ
ハードボイルドな方面ではホモフォビアが幅をきかせてるのか、どーなの。
今のほうがちゃんと出せばもっと読まれるんじゃないの。
ハヤカワさーん。

被害者の彼は実はイスラムで、レイザー・ジャファーリって名前。
9.11以前だなあとはちょっと思った。
まあそもそもゲイであることでマイノリティ扱いではあるんだけど。
ゲイである自分ありのままに生きることができない青少年の悲劇という
ところとか、エイズへのケアとか、そういうところも丁寧に描かれていて
沁みる。
みんながありのままに穏やかに生きられたらいいのにね。

|

« 『夜の片隅で』(ジョン・モーガン・ウィルスン/ハヤカワ文庫) | Main | 『好きの鼓動(ビート)』 『プライドの欲望』 『高慢な天使と紳士な野蛮人』 »

「書籍・雑誌」カテゴリの記事