『地上最後の刑事』(ベン・H・ウィンタース/ハヤカワポケットミステリ)
*結末まで触れています。
『地上最後の刑事』(ベン・H・ウィンタース/ハヤカワポケットミステリ)
マクドナルドの店内のトイレで発見された首つり死体。自殺と思われるが、
ヘンリー・パレス刑事だけは納得しなかった。どこか不自然な感じがする。
地球に小惑星が衝突すると観測され、半年後には人類滅亡とみなされてい
る中で、自殺者は珍しくない。だが、一人捜査を続けるヘンリー。
世界の変化。刑事であり続けようとする新米ヘンリー。死んだ男を追い、
少しずつ真相に迫る。
これ、実は三部作になるんですね。これが第一作。二作目はもう書かれて
いて、三作目が今年書かれる予定、らしい。続くのかよ、と解説を見て気が
ついた。
一応最初の自殺と思われた男、保険屋のピーター・ゼルの死についてはけり
がついているので、いったん終わり、という感じではある。ヘンリーが務め
ていた警察がなくなっちゃって刑事やめて、この先どうなるのかはわからな
いということで、世界はどうなっちゃうの、と思うけど。
ダメダメ妹ニコが、何かに関わっていて、「希望」が、あるんだかないん
だか。その辺のこととかもっと描かれるのかな。次も出れば読みたい。
やる気ない同僚とか、一人疑問を抱き一人地道に捜査を続けるとか、オーソ
ドックスな感じではあるんだけど、その一人でやるしかない理由というのが
世界が終わるから他の誰もやる気になってくれないんだって斬新かも~。
ほころびてゆく秩序。
多くの人が仕事なんか放り出してやりたいことやるとか、絶望して自殺とか、
そうなってしまう世界で、憧れだった刑事という仕事を全うしようとする
ヘンリー。
妹は厄介ごとを相談してくるし、いろいろ大変ね、と思ってたら、実は妹、
なんなのっ、と引っ張られたのも意外だった。
ピーターを殺したのも、目的は金、といえば金なんだけど、その金は大事
な一人息子を守るためになんとかなにかできないか、そのために金が必要
みたいなことで。当たり前の世界が続かないという静かな破綻がずうっと
漂っているのが味わい深い感じ。
もうすぐ世界が終わるとしても、仕事をこなそうとする人はいる。
何もかも放り出す人もいる。
ただ祈る人も。
不確かな希望を求める人も。
これ、三部作最後には世界がどうなるのか描かれるのかなあ。どんな風に
なるか。楽しみだ。
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