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『点滅』(榮猿丸/ふらんす堂)

『点滅』(榮猿丸/ふらんす堂)
  

 
著者第一句集。
句集をわざわざ買うことはあまりないのだけれども、いくつかの句を
見るにつけやっぱり自分で欲しいよーとなってしまって買った。
サイン本ゲットしたぜ。
  

 
  汝が腿に触れジーパン厚し夕薄暑 
  

 
この句が書いてありました。ああ。触るのねえ。触るよねえ。くー。
  

 
2002年から2012年に作られた句、330句を収めたとのこと。
厳選されたのかなあ。付箋つけながら読んだけど、あれもこれも、全部、
全部つけたい、って思うほど。かっこいい。はー。惚れる。
  

 
作者は男性、というのは知っているので、基本的には作り手男性と思い
ながら読む。相聞、っていうのかなあ、恋の句にひかれる。うっとり。
なんかねー、けっこうぞんざいだったり武骨だったりする男の手、って
感じる。それが繊細になる瞬間みたいな気がする。力強いのに不意に
優しいみたいに思ったりする。というか、そういう自分の理想とか好み
とかを投影して読んでしまう。えろい~、と、思わせるのが凄い。
惚れされる句なんだよねー。かっこいい。
  

 
俳句はやはり余白が多いと私は思うので、一句の背後の広がりに妄想投入
しようとすればどんどんいってしまう。あんまりそういうのよくないの
かなあ。わかんないけど。
句が強いので、どんどんいってもゆるぎない感じがしてますますうっとり
してしまう。かっこいい。

好きな句、いくつか。
  

 
  喉まで釦責めなり休暇明

ちょっと長い休暇の後でしょうか。釦責め、っていうのが素敵。是非
ネクタイスーツもキメて眼鏡男子であってほしい。 

  風邪薬拒む子の口ゆるびたり
  

 
子どものことを描いている句がけっこうあるな、という印象だった。
私の好みとしては子どものは好きじゃないんだけど、この句はどうしても
何度も目にとまる。口が「ゆるびたり」がなんだかセクシー。風邪で熱っ
ぽく苦し気だったりするのに薬は嫌だっていうのね。その口元。あー。
ほんとすみません。ぞくっとくる子どもの色気だと思う。これ好き。
  

 
  合成樹脂の聖樹ボール紙の天使

クリスマスツリーかなと思うんだけどどうでしょう。手触りのある句。
合成やボール紙と聖樹、天使のとりあわせがとても素敵。

  春の潮脈打つものを喰ひにけり

ほんとはシンプルに、まだ活きのいい海産物を喰う、のだろうけれど
恋人をくってしまう、というえろす目線で読んでしまう。いいなー。
いいなー。さわやかっぽいのにむしろえろす。
  

 
  別れきて鍵投げ捨てぬ躑躅のなか

好き。捨てないで鍵は返しましょうよ。いや、鍵を自分に返されたの
かなあ。返された鍵なんかいらないのか。いやでも鍵は大事にしようよ。
でも捨てちゃうんだよねー。かっこいい。

  蟻払ひ蟻の頭残る腕なる

蟻に噛まれた腕。ぞくっとくる小さな残酷が素敵。自分が死神になった
ささやかな瞬間を思う。怖くて素敵。       

  三本の指にもの食ふ大暑かな 

  靴干せばいちにち家や草の花 

  グラウンド灼けをり蛇口上向けり

  責められて嗤ふをとこや法師蝉

  暖房の室外機の上灰皿置く

  秋風や路地に灰皿あれば寄る


豪快な感じがなんか好き。煙草を吸う人なのかな。飄々と、でもちょっと
くたびれながら煙草吸ってる姿が絵になる感じのようで好き。
(「蝉」の字が出せない。つくりの上、口ふたつのやつです)

  雪の教室壁一面に習字の雪

  監視カメラ毎秒一コマ花散るのみ

しんと冷えた、凍りついた張りつめた世界の緊迫感がある句。視覚的で
よく見える上に、冷たい空気を感じると思う。今が寒い冬だからっての
もあるか。「花散るのみ」は桜だろうけど、花冷えって感じ。 

  春の夜の時刻は素数余震に覚め 

  春の雨いきものはみながまんする 

  蛍光灯はづせばぬくしけものめく

これも春だけど、寒い春、と思う。「余震に覚め」る春の夜は冷たい。
すごくリアルにこの感覚に共感する。
蛍光灯の温度。やわらかい生き物じゃないんだよな。ガラスの手触りで
「けものめく」温度。その夜の薄闇の感じを思う。

  舌出せば眉上がりたる氷菓かな

これはちょっとおどけた可愛い句。誰でも自分が好きな人の顔を思い
浮かべればいい。私はねー、ベネたんの表情を思って好きです。お茶目。

  わが手よりつめたき手なりかなしめる 

  愛かなしつめたき目玉舐めたれば

  口中に母音重たし春のくれ

  日覆や通りの女すべて欲す

  ベランダに名月を見るふうんと言ふ

  手を入れて汝が髪かたしクリスマス

恋の、えろすの句と思って好きなやつ。うっとり。何してんの。でも
感触が冷たいのがとってもかっこよくて素敵。激しさがあるのに冷えて
いる。
全然違うって思うんだけど、高村薫の『照柿』を連想する。灼熱に燃え
るのに、冷えているんだよね。どろどろに溶けるのに硬質なんだよね。
好きだ。
 
引用しすぎたかなあ。これでも控えたつもりだけど、ほんともう全部
素敵です。全然まとまりませんが、買ってよかったということです。

喉まで釦責めなり休暇明 (P19)
風邪薬拒む子の口ゆるびたり (P25)
合成樹脂の聖樹ボール紙の天使 (P26)
春の潮脈打つものを喰ひにけり (P31)
別れきて鍵投げ捨てぬ躑躅のなか (P35)
蟻払ひ蟻の頭残る腕なる (P39)
三本の指にもの食ふ大暑かな (P44)
靴干せばいちにち家や草の花 (P49)
わが手よりつめたき手なりかなしめる (P55)
愛かなしつめたき目玉舐めたれば (P66)
口中に母音重たし春のくれ (P71)
舌出せば眉上がりたる氷菓かな (P85)
グラウンド灼けをり蛇口上向けり (P87)
日覆や通りの女すべて欲す (P89)
責められて嗤ふをとこや法師蝉 (P91)
雪の教室壁一面に習字の雪 (P100)
暖房の室外機の上灰皿置く (P102)
春の夜の時刻は素数余震に覚め (P152)
春の雨いきものはみながまんする (P153)
蛍光灯はづせばぬくしけものめく (P153)
監視カメラ毎秒一コマ花散るのみ (P154)
汝が腿に触れジーパン厚し夕薄暑 (P157)
ベランダに名月を見るふうんと言ふ (P171)
秋風や路地に灰皿あれば寄る (P176)
手を入れて汝が髪かたしクリスマス (P180)

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