« 『点滅』(榮猿丸/ふらんす堂) | Main | 映画「エージェント:ライアン」 »

『誰よりも狙われた男』(ジョン・ル・カレ/早川書房)

*ネタバレになっているかも。
 

『誰よりも狙われた男』(ジョン・ル・カレ/早川書房)
  

 
ドイツ、ハンブルク。背の高い痩せこけた若者が一軒の家を訪ねる。
チェチェン人だという青年はイッサという。ロシア語しか話せない。
庇護を求める彼には秘密の資金があるようだった。
  

 
ル・カレの新刊。だけど、訳者あとがきによると、『ミッション・ソング』
と『われらが背きし者』の間に入る作品とのこと。翻訳の順番が前後した
ということでしょうか。別に繋がってる話ではないみたいだからいいか。
しかもこれはもう映画化されてるんだって。フィリップ・シーモア・ホフマン
がバッハマンを演じてるんだって。先日訃報を聞いたばかりの。。。日本で
公開あるかなあ。あれば見たいなあ。
  

 
謎めいた、拷問を受け国を逃れてきたらしい青年イッサ。どうやらとても
美青年のよう。何もはっきりしたことは言わない。彼を助けようと奔走する
弁護士、アナベル・リヒターに、改宗してくれたら結婚しましょうとさらり
と言う。
でも別世界にいるかのようなイッサ。なんだろうこの不思議な感じ。夢の
王子様みたいな感触。でも突然紛れ込んできたこんな夢の世界の青年だから、
関わってしまった人の世界が少し狂う、というのは納得してしまう。
  

 
もちろん夢やファンタジーめいた小説なわけはなくて、とことん地道。
イッサは不法入国。犯罪者でテロリスト。イッサを巡って、ドイツの情報部
つーかなんかいろいろあってのドイツの憲法擁護庁? よくわからないけど
組織の人間が彼を捕まえようと動く。英国も彼を、というか、彼の秘密の
資金をひっそり管理していたプライベートバンクのブルーを欲しがって動く。
CIAも絡む。

善意の弁護士だったアナベル。父の銀行の跡を継いだトミー・ブルー。
それぞれにスパイなどとは縁遠かった彼らがイッサに関わり、情報部に
取り込まれ、動かされ、翻弄されていく。日常がいきなり非日常になり、
感情が動き、止まれなくなっていく。
そういう感じがすごくいい。

やっぱり読んでいる最中には何がなんだかどうなっていくんだか、登場人物
と一緒に見えない暗い中にいて、つまんない眠たいとか思ったりするんだけど
やっぱり心もいつの間にか掴まれていて揺さぶられていて最後には唖然として
終わってしまう。CIA酷いじゃなーい。英国はどこまで知ってて関わってた?
ギュンター・バッハマンがなんだか気の毒。
テロとの戦い。911後の、アメリカとイスラムの戦い。国家や組織では
なく、テロとの戦い。唐突で単発で何が誰の正義なのかわけがわからない。
イッサは本当にテロリストなのか?
ドクトル・アブドゥラは本当にテロリストの資金源なのか?
明確な答えはない。

英国のイアンはなかなかかっこよさそうな気がして好きだったな~。
 
ル・カレの作品そこそこ読んできたし、きっとこんな風に突き放されて
終わってしまうんだ、って思ってるのに。最後にまた茫然として取り残さ
れて、作者酷い、と、人生振り回された気分に浸る。
面白かった。

|

« 『点滅』(榮猿丸/ふらんす堂) | Main | 映画「エージェント:ライアン」 »

「書籍・雑誌」カテゴリの記事