『ナイトホークス』上下(マイクル・コナリー/扶桑社ミステリー 文庫)
*具体的内容、結末まで触れています。
『ナイトホークス』上下(マイクル・コナリー/扶桑社ミステリー 文庫)
ハリー・ボッシュ。ハリウッド署殺人課の刑事。ヴェトナム戦争を生き延びてきた。
ある日見つかった男の死体は、ボッシュののヴェトナム時代の戦友だった。
特に親しい間柄ではない。だが、ヴェトナムの地下トンネルに潜った仲間は
忘れられない。単なる麻薬の過剰摂取による自ら招いた死のようだったが、
いくつかの不審な点を見つけたボッシュは他殺の疑いを持つ。
この文庫は1992年発行。舞台は80年代なのかな。まだヴェトナムの影を
引きずる人間が多数いる時期、か。アメリカのトラウマかなあ、ヴェトナム戦争。
捜査を進めるうちに、数ヶ月前の銀行強盗とのつながりがわかり、ボッシュは
その件の担当のFBI捜査官、エレノア・ウィッシュと一時的パートナーになる。
寝るのね。そうなるのね。そういうもんだよね。ちょっと時代を感じるかなあ。
ハードボイルドはそうなっちゃうよね、というイメージ。
共に孤独で。
タイトルの「ナイトホークス」はエドワード・ホッパーの絵のことだった。
「夜更かしする人々」。夜のダイナーみたいなところのカウンター。カップルと、
一人の背中むけた男。二人ともその絵を好きで。ふたりとも、カップルではなく
一人背中しか見えない男に自分を重ねている。
眠れない夜。誰とも一緒ではない黒い男。
一緒に夜を過ごしたのに、孤独なままのボッシュとウィッシュ。
目撃者として話を聞かれたばっかりに、殺されてしまった放浪少年のシャーキー。
彼を巻き込んでしまったことを許せないボッシュ。
こういうかたくなさも、ハードボイルドなところかなあ。ウィッシュより、
かかわりとしてはわずかなシャーキーの死のほうが重要。
私もウィッシュに同情はしないけど。
大事な兄だと思っていた、その大事な思いが崩れた。からといって、復讐の方法を
みつけたからといって、そっちにいってしまうなんて。うーんー。
ウィッシュもまた間接的にヴェトナム戦争によって壊れてしまったんだろう。けど。
ボッシュに見抜かれ、自首しろ、と言われてよかったんだと思う。
トンネル掘って銀行強盗だぜ!爆弾どっかーん!
って派手な事件でもあり地下をめぐっててとてつもなく地味で暗くもあり。
ハードボイルドでなんだか内省的になっちゃってて、ロスでハリウッドなのに
全然明るい印象のない話しだった。昼間も行動はしてたのに、青空も太陽もない
世界みたいだった。
ナイトホークス。
夜と地下のお話。
面白かったけど滅入っちゃったよ。
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