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『影の巡礼者』(ジョン・ル・カレ/早川書房)

『影の巡礼者』(ジョン・ル・カレ/早川書房)

英国情報部の新人研修の初等コース最終日に、ジョージ・スマイリーに講演を
依頼する。
ネッドはそう思い立ち手紙を書いた。意外にも承諾の返事が届き、伝説のスパイ、
スマイリーは若い研修生たちを魅了して語った。同時に、ネッドも自身のいくつかの
忘れがたい仕事を思い出す。

ということで、回顧録のような一冊。章立てはないけどスマイリーのスピーチに
触発されてネッドがある事件を思い出す、という感じで短編集のような感じ。
まだ新人だったとき、大事な親友だったベンが消えて疑いがかけられたこと。
ジョーと呼ぶ情報提供者、協力者とのかかわり、その恋人ベラとの情熱のひと時、
年を経た役立たずのジョーのテオドル教授がパスポートを得るための茶番に
付き合ったこと。
引退した伝説のスパイ、スマイリーが先導者であったネッドの半生もまた華麗とは
いわないまでも、駆け引きと疑いに満ちたもの。冷戦が終わる、という時、彼らの
時代は終わった。それでも諜報活動は決してなくならない。
スマイリーは「これでおわる」。若者たちに道をあけて。もう引きずり出してくれ
るな、と、振り返らずに去る。
ネッドもまた引退。いろいろあった妻とも穏やかな関係を築き直し、庭の手入れの
心配をする。
終わりなんだ。
 
この本、1991年刊行。『スマイリーと仲間たち』以来、11年後のものだそう。
スマイリーがまた登場するのがあるのか、と、つい先日知ってどきどきして読んだ。
ここしばらく本を読む気力がまったくなくなっていたのだけれども、これはもう~
痺れる。好き。どんより寒い冬空の中で読んだのも雰囲気ぴったりなのかもしれない。
仄暗いヨーロッパ。寒い。
ピーター・ギラムくんもほんとにちらっと、ちらっとは登場。元気かー。
職をまっとうするのかなあ、という感じで、よかったね、と、いっていいのかどうか。
主な語り手のネッドは『ロシア・ハウス』でご活躍? それも読んでみるかなあ。
スマイリーが終わった、と思ったあと、しばらくル・カレはいいや、と思っていた
けれども、読むとやっぱりすごい好き。淡々としてるし地味だ。淋しい。だけど
読み終わりにはこの上ない満足感がある。スパイ、いいなあ。

ビル・ヘイドンがいたころのこともあったりで、胸が苦しく思いながらじわじわと
読んだ。く~~~。
それからその<崩壊>直後な感じもちらっとあったりして、ああああ~と思う。
濃厚な同性愛の雰囲気も堪能。まるっきりそっけないのに、それがたまらなくいい。
私、気持ち集中させるところ間違ってる(^^; でも素敵すぎる。
つまんないなあとかもどかしいわあとか、やっぱり読んでいる最中にはそうも思う
のに、なめるようにハアハアじわじわ興奮もする。変態にならざるをえないル・カレ
の小説凄い。

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『慶応三年生まれ七人の旋毛曲り』(坪内祐三/新潮文庫)

『慶応三年生まれ七人の旋毛曲り』(坪内祐三/新潮文庫)

漱石・外骨・熊楠・露伴・子規・紅葉・緑雨とその時代
 
この七人は生まれたのが慶応三年と同い年。明治の年号と年齢が同じになる。
という発見から、七人並列的にその姿を追いかけて描く、んーと、エッセイ?
評伝? そんな感じです。

 
子規さんと漱石先生が仲良しなのは知ってた。熊楠が同級なのも。露伴、紅葉、
緑雨のことはあまり意識したことなかったなあ。と思って、この豪華七人を
どう見せてくれるのか楽しみに読んだ。
けど、実際読み始めるとなかなか読みづらかった。私が基本的知識がないん
だよなーというのはもちろんながら、あっちいったりこっちいったりがねー。
あっちいったりこっちいったりの感じで描いているのがこの本のいいところ
なんだと思うんだけど、なかなか慣れず、集中しづらく、かーなり長いこと
読んだりやめたりしながらやっと読み終わり。

 
語り口というのか、時々作者のコメント、的に出てくるのにもちょっと馴染め
なかった。司馬遼太郎だったら全然気にならなくてむしろ喜んでうんうん、って
読むのに、この場合はなんだか駄目だったなあ。私がこの著者のことを全然知ら
なくてなんの思い入れもないから、ちょっとむっとしてしまって、なんだよ?と
反発覚えるのが駄目なんだと思う。なぜ反発してしまうんだ俺、と、自分に突っ
込みどころだけど、なんか、なんとなく(^^;


紅葉とか露伴とか読んでないよなあ。たくさん作品を引かれてて、時々面白い
と思った。金色夜叉とかむしろ今読むと面白いんじゃないのか。
たっくさん資料というのは残っているもんなんだなあと感心する。それを丁寧に
ひいてきてる作者すごい。好きなんだろうけど、それにしてもすごい。
明治期になると作品や資料が残ってるもんなんだなあと思った。旧仮名でも
まあ普通に読めるしね。活字って素晴らしい。

なんといっても子規さんが好きで、漱石先生が好きで。もっとそればっかり
読みたい。熊楠のことが少なかった。と、私の期待のもちどころが違ったなと
思った。紅葉とかにあまり興味ないんだよねー。作品読んでみないとなあ。

そして、日清戦争にむかう、というところで終わり。
それでも連載の予定は大幅にオーバーしてのことらしいけど、でも、えっ、
ここで終わりか~という気もする。ま。こんなもんですかね。
のんびり読むにはいい本でした。

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『ナイトホークス』上下(マイクル・コナリー/扶桑社ミステリー 文庫)

*具体的内容、結末まで触れています。


『ナイトホークス』上下(マイクル・コナリー/扶桑社ミステリー 文庫)

ハリー・ボッシュ。ハリウッド署殺人課の刑事。ヴェトナム戦争を生き延びてきた。
ある日見つかった男の死体は、ボッシュののヴェトナム時代の戦友だった。
特に親しい間柄ではない。だが、ヴェトナムの地下トンネルに潜った仲間は
忘れられない。単なる麻薬の過剰摂取による自ら招いた死のようだったが、
いくつかの不審な点を見つけたボッシュは他殺の疑いを持つ。

この文庫は1992年発行。舞台は80年代なのかな。まだヴェトナムの影を
引きずる人間が多数いる時期、か。アメリカのトラウマかなあ、ヴェトナム戦争。

捜査を進めるうちに、数ヶ月前の銀行強盗とのつながりがわかり、ボッシュは
その件の担当のFBI捜査官、エレノア・ウィッシュと一時的パートナーになる。
寝るのね。そうなるのね。そういうもんだよね。ちょっと時代を感じるかなあ。
ハードボイルドはそうなっちゃうよね、というイメージ。
共に孤独で。
タイトルの「ナイトホークス」はエドワード・ホッパーの絵のことだった。
「夜更かしする人々」。夜のダイナーみたいなところのカウンター。カップルと、
一人の背中むけた男。二人ともその絵を好きで。ふたりとも、カップルではなく
一人背中しか見えない男に自分を重ねている。
眠れない夜。誰とも一緒ではない黒い男。
一緒に夜を過ごしたのに、孤独なままのボッシュとウィッシュ。

目撃者として話を聞かれたばっかりに、殺されてしまった放浪少年のシャーキー。
彼を巻き込んでしまったことを許せないボッシュ。
こういうかたくなさも、ハードボイルドなところかなあ。ウィッシュより、
かかわりとしてはわずかなシャーキーの死のほうが重要。
私もウィッシュに同情はしないけど。
大事な兄だと思っていた、その大事な思いが崩れた。からといって、復讐の方法を
みつけたからといって、そっちにいってしまうなんて。うーんー。
ウィッシュもまた間接的にヴェトナム戦争によって壊れてしまったんだろう。けど。
ボッシュに見抜かれ、自首しろ、と言われてよかったんだと思う。

トンネル掘って銀行強盗だぜ!爆弾どっかーん!
って派手な事件でもあり地下をめぐっててとてつもなく地味で暗くもあり。
ハードボイルドでなんだか内省的になっちゃってて、ロスでハリウッドなのに
全然明るい印象のない話しだった。昼間も行動はしてたのに、青空も太陽もない
世界みたいだった。
ナイトホークス。
夜と地下のお話。
面白かったけど滅入っちゃったよ。

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新鋭短歌シリーズ出版記念会

11月30日、日本出版クラブ会館で行われた「新鋭短歌シリーズ出版記念会」
に行ってきました。190名ほどの参加だったのかな。凄いいろんな人がいて
盛況。私の個人的主観的メモで覚書日記です。もしかしたら発言者の意図を間
違って聞いているかも。あくまで個人的覚書メモです。

 開会挨拶
 シリーズ著者紹介

 第一部・トークセッション
 歌集を出すかもしれないあなたへ ~第一歌集のこれまでとこれから~
 進行・加藤治郎 東直子/光森祐樹

 第二部・トークセッション
 短歌を遠くへ届けたい! ~これまでしてきたこと、これからできること~
 進行・堀合昇平 木下龍也/嶋田さくらこ/陣崎草子/田中ましろ

 第三部・合評
 新鋭短歌シリーズの歌を読む
 進行・岸原さや 鯨井可菜子/斉藤真伸/天道なお(当日は欠席)/望月裕二郎

 シリーズによせて 筒井孝司
 閉会挨拶

という感じ。さくさく進行して安心でした。

第一部は加藤さん80年代東さん90年代光森さん00年代というデビューの
年代にそって振り返ってのお話。治郎さんは岡井さんのうちに行って歌集を出
したいんです、と相談した、強固な師弟関係というものの最後の年代かなあ、
ということ。東さんは、出した時には結社にいたんだけれども、先生に相談と
いうよりは、先輩や仲間と共に、という感じ。光森さんは無所属で相談をどう
するのかもわからなくて、出版社も歌集を出したところのないところで、本を
出したあとからなんとなくあれこれを知った、という感じ。

師弟関係って、よそからはなんとなくアンタッチャブルですねえ、とか、解説
は本文と同じ扱いで全集なんか出すとしたら入るけど、栞はそうでもないとか
ほー、と思うようなお話で面白かった。
2000年頃治郎さんたちがやってた歌葉は、フリーのプロデューサー的役割
で歌集づくりの手伝いをしたもの。無所属で短歌をはじめ、続ける人が多い今
こそニーズがあるかもしれない役割ですね。
その延長なのかな、監修者、プロデューサーとして今回の企画かーと思った。

光森さんのレジュメで2000年以降の第一歌集の紹介があり、そういうのを
選んできたんだろうとはいえ、歌集といってもいろーんな、いろーーーんなの
があるのがわかる。電子書籍で出すとか歌集を出すことの選択肢が広がったこ
ともあるし、歌集を出す、というのが先生に解説書いてもらってわが歌を世に
発表します、というものだけでもないという歌人側の意識の幅も広がったとい
うことなんだろう。
短歌、歌集出版にかけるコスト、それ以上を得たい、得るように努力するとい
う感じは納得できる。歌壇とか結社とかゆるくなってきているとはいえ、そこ
に問う部分はあるんだろうなあ。でもそこではなくいわゆる「一般」に向けたい、
その幅の広がり方が今カオスな感じなのかもしれない。

会場からの発言で、歌集を献本ばっかりの短歌の文化は不健全、というのがあり。
書店で流通して欲しい、というご意見はもっともだと思う。でも書店に本を
流通させんのは地方であればあるほどどんだけ大変かってのもなーと思う。
「書店で歌集を買いたい」みたいなイベントも先日あったけどそれは私は行け
てなくてわかんないんだけど。別に歌集に限ったことではなくて、本を実際に
書店で買うことが容易なことじゃないんだよーというのは、個人的に鬱々と思
うことありで、むむむ、と思う。もうみんなアマゾンに下っちゃえよ、とヤケ
クソ。。。

第二部、短歌を遠くへ届けたい! 遠くって要するに、短歌を知らない人に届
けたい、ってことなんですかね。
短歌って敷居が高い、ってイメージを変えたい、そんなこと思わずに手にとって
見て欲しい、というそれぞれのご活躍の発表でした。
私はきちんとしたサラリーマンづとめをしてなくて、イメージでしかないけど、
あー、プレゼン? こういうのがプレゼン? と思いながら聞きました。

田中ましろさんは「うたらば」や「短歌男子」で短歌に遊び心を加えることで、
口コミとして誰にでも紹介しやすいものにして広めてらっしゃる。木下さんは
歌集出してもなお一般公募に投稿続けて、一般の人の目に触れる打席に立つと。
陣崎さんは言葉のふるえを素粒子にたとえてたり、絵本と短歌の話をされてて、
絵本の文体だと時間の凝縮というのは向いてなくて、短歌をすてることになる、
というお話が面白かった。

みんな短歌が好きなのかあ、と思う。短歌を広めたいとか知って欲しいとか、そ
の情熱は何なんだろう。私も確かに短歌は面白いと思って始めたんだけど、だか
らそれをみんなに伝えたい!とか、思わなかった。紹介もおすすめもしない。(
読書日記は書くけど)面白いと思う人が勝手にやればいいいしやりたければやり
たい人が各自やっていくことなのだと思う。たぶん私が短歌大好きでなくて愛が
足りないんだろう。たくさんのみんなと一緒にやりたい!とか、そういう情熱が
ある感じが不思議だった。

休憩を挟んで第三部、合評。12冊の歌集から一首ひいてのコメント。時間が短
くてほんと一言コメントな感じだったけど、こう一首並んでいるのをみてつくづ
くいろーんな歌の文体の作者たちなんだなあというのを一覧できて面白かった。
紹介の仕方も、発表者の個性が見えて面白い。12冊の合評って? と思ってい
たけど、こんなさくさくっとしたのもいいですねえと思いました。

笹井宏之さんのお父様のご挨拶。笹井さんのことを思い出してしんみり。
笹井さんの「人さらい」批評会に行ったことは今となっては宝物な思い出になっ
てしまった。

そんなこんなの充実の4時間近く。
スタッフの皆様ほんとうにお疲れ様でした。ストレスなく参加できてよかった。
素晴しかったです。ありがとうございました。
 
昔の、その、歌葉のシンポジウム、か。それが私の初めての短歌界への接近遭遇
の思い出。その時にもすごく沢山人がいて、でも誰も知らなくて、憧れの歌人が
前でしゃべってるのをぼーっと聞いて、なんだかわくわくどきどきとしたことを
思い出した。
たぶんこの記念会が初めてのオフ会参加みたいで、高揚した人がいっぱいいたの
だろうなあと思う。

今回は会場の中に知ってる人もいて、だけど今回もやっぱり誰とも喋るとか仲良く
なるとかなくて、一人で行って一人で帰ってきた。歌葉に行ったときから結構長
くになろーというのに、あー一人なんだなというのは変わらなかった。そんなも
んだな私。

今回感じたのは、とってもビジネスっぽいなあということ。プレゼンか~と思っ
たこともそうだし、会場のあちこちで、こんにちは、どうもーとか交わされる挨
拶とか。第二期の募集します、というのも、なんか、なんか、エントリーシート
に立派なこれまでやってきたこととか志望動機とか短歌への熱意とか書き連ねて
応募しなくちゃいけないような、これは私の勝手なイメージで、なんか、なんか、
意識高い系歌人としてそつなく明るく上手くやって短歌の素晴しさ楽しさを広く
みんなで一緒に楽しみましょう!
みたいな気がして、こわかった。ほんとこれは私が根暗い性格でついていけない
なあと勝手にびびって思っただけなんだけど。

短歌がビジネスになったり広く一般へというのはとてもいいと思う。流通するよ
うになって読者が増えれば素敵なことだと思う。
そうなるのかなあ。ならないのかなあ。いろんな変化を目の当たりにする気がし
て面白い。
でも、そういうのをするのは素敵な意識高い人たちな気がして私はますます違う
ところにいる気がした。
何が「新鋭短歌」なのか、どう続くのか、面白いなー。

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