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『リヴィエラを撃て』上下(髙村薫/新潮文庫)

*結末まで触れています。

『リヴィエラを撃て』上下(髙村薫/新潮文庫)
 
IRAの活動員だった父を亡くしたジャック。自らもいつしかテロリストの
道に踏み込む。
少年時代、近くに住んでいたピアニストのノーマン・シンクレアと親しく
なるが、シンクレアもまた、ただのピアニストではなかった。

かつて亡命中国人が持ち出した謎の重要書類。それを巡る国家の秘密。
スパイのコードネーム「リヴィエラ」。鍵を握るはずのその人物を追い、
日本でも事件が起こる。

髙村薫の書き下ろし四作目にあたる、そうです。デビュー前年の、最終選考に
残った作品のタイトルが『リヴィエラ』だったそうで。もちろんその後大きく
書き直しての本書ということみたいです。
ル・カレの影響っていうのが濃厚、な気がする。たぶん。
そもそも舞台がロンドンとかだし。アイルランド紛争とか。でも濃密に個人
の物語である。

もったいなくてじわじわ読んでいたらだんだんもう謎もなんもどうでも
よくなってきてしまう。面白くて一気読み!というよりは、じわじわと人物
それぞれの人生そのものに寄り添うように読んでいってよかったと思う。

シンクレアとダーラム公の幼き頃とか妄想しちゃったりしてたまらん。
ジャックとシンクレアももっと違う人生の中で出会えていたら、と、切なく
なる。でも、そしたらこんな思いを抱くことはなかったのか。それでも
魂がひかれあうものだったか。
文章は硬質で冷たくそっけなく淡々としているのに、立ち上る色気は一体
どういうわけなんだろう。髙村薫の世界は凄い。
映像化にいつも失敗してしまうのは、ストーリー追うだけじゃてんでダメ
で、そのストーリーもかなり壮大だったり入り組んでいたりで。しかも
この書いてないのに濃密すぎる切なさ色気、堅牢なようでいていまにも崩れ
そうな危うさ儚さ、そういうの映像表現にしうる監督に出会えないからだと
思う。かっこよく映画化してほしいけど、無理なんだろうなあ。

シンクレアとダーラム公の最期は幸福だったのだろうか。ぼろぼろになって
も、互いを目の当たりにしながら死ぬのは幸福だったのではないのか。
日本でひっそりと死んだジャックは。ジャックは、哀しいなあ。日本なんか
でどうにかできたとは思えない。
どこにも所属できなかった手島を繋ぐのが養子に迎えた子ども、というのは、
うつくしいようだけれども、でも、あまり希望でもない気がするなあ。
いつかジャックの話をするのか?どんな話を聞かせるんだ。何も聞かせない
のか。シンクレアのピアノは聞かせるかな。哀しい。

結局、リヴィエラについては幻のほうが大きくて、長年のうちにそれを巡る
人の物語のほうが大きくなりすぎて、真相を語られてもなんだか、なんだか、
なんか、そっか、くらいな感じ。
そしてこの小説の後の、香港は返還され、密約のなんだかんだも、今はもう
遠い昔のこと、という、読み終わった後の気分はなかなか素晴しかった。

この小説の単行本は平成4年で、この文庫は平成9年。二十年ほど昔かあ。
時代当時なら緊迫感がもっと切実に何かあったのかもしれない。今読むと
歴史ものっぽい気分が勝つ気がする。それでも、十分に締め付けられる緊張感
はある。スパイ、という存在が冷戦だとか国家間のものだったなあと思う。
今はスパイというよりテロリストだよね。国家間というより国家と個人の
ような。
時代って変わるんだなあ。

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