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『追悼の達人』(嵐山光三郎/新潮文庫)

『追悼の達人』(嵐山光三郎/新潮文庫)

文人たちの死の後、どんな追悼がなされたか。
明治、正岡子規に始まって、大正、昭和は小林秀雄まで。
追悼の紹介、その文人本人と周りの人々のこと。一人あたり12ページ程度で
さらりと書いてあって、知ってる人のことも知らない人のことも、とても
面白かった。
嵐山光三郎って初めて読んだ。こんなにもいろんないろんないろんなこと
よく知ってるなあとびっくりする。薀蓄が嫌味にならずに、通り一遍のこと
より少し踏み込んでいるバランスが絶妙に思う。面白かった。

追悼だっつーのに批判したりもけっこうしてるのね。文人というのは
やっかいだなあ。
宮沢賢治は死後にこそ見出され広く愛されるようになった、とか。よい
追悼をしてくれる友人を持ちえるかどうかが人徳なんだろうか。

子規の追悼にずらーりと句が並んでたりするのは面白い。糸瓜忌、って、
季語になったりもするわけで、有名人の忌日の句はみんな追悼句、って
ことになるのかなあ。
短歌だと挽歌ね。挽歌はいっぱいあるけど、決まった忌日みたいなのは
ない、と、思う、けど、どうなんだ。

なんとなく、追悼ということがひしひしと身近に感じるようになってきた。
短歌やるようになったというのもあるし、自分も年をとったし。
人はいつか必ず死ぬ。
わかっていても、追悼する人にはあんまりなりたくない。でも、いつか
その日はくるんだよなあ。

しんみりしつつ。面白かった。

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『ジェイコブを守るため』(ウィリアム・ランディ/ハヤカワポケットミステリ)

*結末まで触れています。


『ジェイコブを守るため』(ウィリアム・ランディ/ハヤカワポケットミステリ)

アンドルー・バーバーは地区検事補だった。51歳。一人息子、ジェイコブ。
愛する妻、ローリー。
ある日、ベンという少年の死がその街に影を落す。ベンはジェイコブの同級生
だった。14歳の少年の死。最初その事件を担当したアンディだったが、担当
を外れるよう言われる。
そして、容疑者として、ジェイコブの名前があがる。

著者の第三作らしい。前のは読んだことがないのだけれども、別に支障は
なさそう。著者は実際6年間検事補だったんだって。なるほど。

息子に殺人容疑がかかった時、家族はどうするか。
父アンディは、息子がやったかもしれないという疑いを持つことすら拒否して
かたくなになる。母は、自分の育て方の何かが間違っていたのかと自分を責め、
息子の力になるにはどうすればいいのか思い悩む。もしも本当に息子が犯人で
あったら? その疑いを父は共有しようとせず、一人思いつめてゆくローリー。

アンディはまた、自分の家系が、暴力的なものであったことを言えずに悩んで
いた。殺人遺伝子が受け継がれているのではないか。目をそらし続けてきた
その問題に苦しむアンディ。
そんな中、事態の重さをわかっているのかどうか、つかみどころのないジェイコブ。
14歳の少年らしい。あるいは、普通じゃない少年なのか?

アンディのかたくなさに腹が立つし、ローリーの心配ももどかしい。
でも、息子に殺人容疑というときには、たとえ地区検事という犯罪に近い仕事を
していた人間さえもかくも愚かになるものか、と、思う。

途中、法廷でのやりとりのシーンがはさまれるのだけれども、だんだんそれは、
ジェイコブの事件のことではないみたいだ、とわかってくる。では、アンディは
何故法廷に? 何が、起こったのか。
ジェイコブは犯人なのかどうか。法廷では何が行われているのか。ひっぱられて
やめられないとまらないになりそうなのを、なるべくゆっくり読んだ。

で。ジェイコブが犯人だったのかなあ。その疑いの重さ。確かに耐えられない
かもしれない。でも、でも。でも、疑いで。でも、母親というものにはわかるもの
なんだろうか。辛い。
アンディなんでしっかりローリーと話して支えて家族を守らなかったんだよっ、
とも思うけど、でも、アンディもいっぱいいっぱいで、というのもわかるしなー。
辛かった。

一度司法から自由になったから、もうローリーが自分で始末をつける、と思いつめ
るしかなかったのか。愛する大事な息子と共に死ぬしかないという心情。なのに、
生き残ってしまったらしいローリー。辛い。
そして、妻が息子を殺したという裁判の証人となるアンディ。辛い。
でも、どうしても私は、アンディがどんなに息子を愛してると書いてあっても、
アンディの愛は間違いなんだ、と、思えて仕方なかった。完全に正しく愛する
ことができる親ばかりではないとわかっているけど。アンディは本当にジェイコブ
を愛しているのか。アンディの愛情は自分勝手な、「よき父親」たる自分のための
愛情だったのではないかと思ってしまった。
だからってジェイコブが殺人者になっていいわけないんだけど。
すっきりもせず救いもなく、突き放された気分で読み終わる。凄い。
重かったです。

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『フリッカー、あるいは映画の魔』上下(セオドア・ローザック/文春文庫)

*ネタバレ、結末まで触れています。


『フリッカー、あるいは映画の魔』上下(セオドア・ローザック/文春文庫)

ウエスト・ロサンジェルスの小さな映画館。クラッシック座という名画座は
地下にあった。運営していたのは退役軍人のシャーキーとその愛人クレア。
実質仕切っていたのはクレアだった。
そこで、ぼく(ジョニー・ケイツ)はマックス・キャッスルの映画に出会った。
ドイツからアメリカへ流れてきた名もなき映画監督。B級ホラーの下らない映画
がわずかに知られているだけの監督。だが、偶然発見した彼の作品を見て、
ぼくはその映画に隠された魔にみいられてしまう。ただ目に見える以上の何かが
この監督の作品にはある。
そして、学生だったぼくはやがて母校の教授になり、映画を研究するようになり、
マックス・キャッスルを追ううちに明らかになる謎にますますのめり込んでいく。

98年このミスで一位だったそうです。タイトルになんとなく覚えがあるのは
そのせいか。この文庫本は99年発行。文字が小さくみっしりであー昔の文庫本
て感じ。読みづらかった。。。
ミステリ、なの?
殺人事件が起こりそれを解決する探偵役、というものではなかった。
60年代くらい?のアメリカ、ハリウッドまわりの学生気分から始まって、
終わりのほうは80年代くらいになってるのか。映画というものがどう扱われ
どう堕落していったか、といったお話のようであり。堕落、つか、変遷?
映画の可能性をさぐる昔の努力から、テクニックの変化とか、映画の未来を
嘆いてみせるとか、映画マニアック話がたっぷり。

で、消えた映画監督マックス・キャッスルを追ううちに、謎のカルト教団が
とかやがて人類の終末をたくらみ、とか、まー、壮大なことに。
最初の頃はウブな学生くんが、才気煥発な年上女性に映画をベッドでみっちり
教えてもらい、ってなノリだったのが、キリスト教の歴史の秘密とか、テンプル
騎士団が、とか、カタリ派は今もいるのかとか、嵐の孤児院の孤児たちが今
世界中で密かに暗躍し、頭脳をのばし、2014年の最終戦争、審判のときを
ひきおこそうとしている、とか。
攫われてしまって、気がつけば南の孤島。しかしなんと、そこで、実はずっと
捕らわれの身のまま生きていた、マックス・キャッスルに出会う! って。
すごいなー。
そして残りのページ少なくなって、これ、どういう結末つけるのだ???と
思っていたら、その孤島からボトルメッセージとして流すんだ、メモワール、
回想記を。っていうのが、この作品、と、いうわけ、ですか。むむー。

映画マニアな薀蓄のあれこれは、どのくらいがホントでどのくらいがフィクション
なのか、私ははっきりはわかんない。有名どころは知ってるけど。
謎のカルト教団もまあいいとしよう。しかし、そんな一人や二人、や、もしかして
もっとたくさんの人間? を、孤島に隔離して自分たちの秘密を守るのだ、とかは、
ちょっとどうなんだ。教団の主義として血は流さない、ってことで殺さずに生かす
ってことなんだろうけど、そんなに効率悪いことするかー?殺せよそこは。
と、つい私は物騒なことを考えてしまったりして、素直に面白がれなかった。
みっしり盛りだくさんな詰め込みっぷりは面白かったけど、決着は腑に落ちないと
思った。

映画をめぐる話なのに、映画化はしづらいだろうなあ。映像化してみて欲しいけど、
映像化できない映画のお話。マックス・キャッスルの作品見たいような。特に
最後の老人の狂気のわざの切り貼り映画のコマたちとか。でも絶対実際の映像で
見るとつまんないだろーという。そういう小説ならではの感触は面白かった。

そして今となっては、映像なんてCGでいくらでもどうにかなるんじゃないの、
と思ってしまうのも今読むと微妙に感じるところかもしれない。それでも日々、
新しい映画というのは追求されているんだろうけれども。
映画に隠されたメッセージ、とかも、サブリミナル?とも思いながらも、
そうでもないのか? と、なかなかつかめそうでつかめないもにゃもにゃ。
読みづらさをがんばって読んだほどには満足はしなかったー。
私は映画好きなほうだと思うけど、映画マニアには程遠い。映画の歴史みたい
なのをもっと知ってたらもっとニヤニヤとか発見があるのかもしれないなあ。


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映画「パシフィック・リム」(3D、字幕にて)

*具体的内容、結末まで触れています。

映画「パシフィック・リム」(3D、字幕にて)

2013年、海の底から、謎の巨大生物が現れた。「怪獣」と呼ばれることに
なったそれは、世界各地に現れる。戦うために人類は一丸となって巨大ロボット
をつくりあげる。イェーガーというそれは、操縦者と神経回路をつなぎ、動きが
連動する。その負担を軽くするために操縦者は二人。
イェーガーによって勝利をえたかと思えたが、さらにスケールアップして
怪獣は次々に現れる。海からやってくる怪獣を防ぐための手段として巨大な
壁を作っても、それは無力となった。
ついに、怪獣がやってくる海底の裂け目を爆発し、侵入をふせぐ最後の作戦が
始まる。

えーとー、ギレルモ・デル・トロ監督がこんなにもオタクだったとは!
私の印象は、「パンズ・ラビリンス」で、あの映画の衝撃は凄くて。今回の
怪獣の怖さ、気持ち悪さ、は、とても納得。あのぬらっとした感じ、怖いんだよ。

そして巨大ロボット!
巨大怪獣がきて、巨大ロボットがガチバトルしたら、大変大変こんなに大変!
街が壊滅しちゃう~!
もー!テンションあがる~~~!

壁なんか作っても、怪獣空飛ばないの? と疑問に思ってたら、後半、飛ぶやつ
現れてびびった。やっぱほらー、壁なんか無駄だよ。
海からの災厄を防ぐための防護壁、って、どうしても、津波のための壁、を、今お
私だと連想しちゃう。。。あと、「進撃の巨人」のイメージも今だとしてしまう。

怪獣に家族を奪われ、一人で泣いていた女の子、森マコは、エヴァのミサトさんの
イメージだったなあ。最後の最後の脱出ポッドも、南極の海に浮かんだミサトさんの
イメージだったなあ。二人でシンクロとか、神経回路つなぐとか。操縦者の適性が
必要みたいな感じだし、エヴァと思う~。マコのせいだけど、暴走して味方のいる
司令部みたいなとこ壊しそうになってしまったり。
まだ謎の敵と戦うぞ!というエヴァの前半のほう。マッチョなエヴァって感じ。
私が一番影響強いと思ったのは、エヴァだけど、でも、攻殻機動隊だとかもそうみたい。
私が攻殻をあまり知らないからわかんなかったけど。
それにもちろん、ガンダムとか。当然ながら、ゴジラとか。
私にわかんないいろーんなものの引用、オマージュいっぱいあるんだろうな~と思う。

そんなこんなのネタさがしをするのも楽しいだろう。
でもともかく!
巨大怪獣だ~~~!!!!巨大ロボットだああ~~~!どかーん! というのに
わくわくして、ぽかーんと、びくっと怖がったりしながら見て楽しむ!
テンションあがる~!

こんなにもオタク趣味全開! にして、ド迫力ド派手娯楽超大作! を作っちゃう
んだねえ。監督いいぞー!
なんか、最後。ローリーとマコ、助かった、ってほっとして笑って、ええ~、そこは
キスシーンでラストがお約束だろ~、と思うのにハグでおしまい。アメリカンじゃない
のね、と、笑ってしまった。ハリウッド大作だけど監督はアメリカンじゃないし、
オタク的にはキスなしでおっけーなのか(笑)

司令官がかっこよかった!
怪獣の脳とシンクロしちゃうというトンデモアイデアを実行してしまうオタク博士と
反目しながらも最後には協力する計算博士のコンビもいいキャラだった。
正統派主人公たちより、脇のほうが面白い、というのも、あるあるーで納得だ。

ほんとは3D眼鏡は頭痛くなるから、2Dでいいんだけど、と思っていたけれど、
近場で2D上映がなくて。でもやっぱり3Dで見てよかったなと思う。凄い迫力。
楽しかった~。

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『中の人などいない @NHK広報のツイートはなぜユルい?』(NHK_PR1号/新潮社)

『中の人などいない @NHK広報のツイートはなぜユルい?』(NHK_PR1号/新潮社)
 
ツイッターで人気の、人気の?かな? NHK_PRの中の人、いないはずの中の人
が書いた、ツイッターを始めるようになってだんだん広く認識されて、という過程
がわかる本。
私がツイッター始めた頃にはもう人気で、最初の頃にフォローしました。
さかなクンに「さんをつけろよデコ助野郎!」な騒動とか、いろんなテレビ局と
フォローしあって仲良くなってるとか、ユルすぎてお叱りを受けて騒ぎに、とか、
リアルタイムに知ってたことのあれこれを、中の人はどう受け止めたり流したり
してきたのか、面白く読んだ。

そして、2011年の震災の時のこと。
その時の危機感とか、NHKとしてはどうなのかとか、怒りと混乱のピリピリした
空気の中で、またユルい日常のつぶやきに戻していったこととか。
泣く。あの頃の非日常感。その中で日常を暮らすしかないこと。
私はちょっとまだ、いまだに、うまく言葉にできない。

この本の感じ、最初は、生協の白石さん+のだめちゃん+バカリズムさんをめざす!
というふんわり女子な感じの文章だったけれど、途中で仕事できます男性的な文章に
なったりもして、実際のところ中の人1号さんの性別すら曖昧な気がしてうまいこと
書いてるなあと感心。
その後中の人2号先輩もありとか。中の人も一人だけじゃなくなって今はどのくらい
の人がやってるのか知らないけれど、でも、中の人追及しても仕方ない。
NHK_PRというユルくて視聴者のみなさまと友達になろう、知ってもらおう、と
いうコンセプトがぶれないのが凄いと思う。

詳しくは書かれてあるわけじゃないけど、批判だとか暴言だとか投げつけられる
のも、ただの個人あてとか一企業あてとかとは比べ物にならないくらい多いだろう
と察するのだけど。へこんだり悩んだりもしながらも、でもみんなを信じよう!
というところに着地するのは凄い。さすが強いし賢い。

震災の時の、たぶんNHKの中の物凄い動きのあれこれ、ほんの少ししか書いて
ないけど、すっごかったんだろうなあと察する。その時のことだけできっと
プロジェクトXになる。まー自分たちで自分たちの中のことはやれないだろうけど。

何故か翻訳文章口調でしゃべる、それなりにいいスーツとか着ているのに
安っぽくしか見えないという、インターネットを管理するお仕事なKさんのキャラが
私としてはとっても大好き!ヘンテコなのに、ヘンテコなのがかっこいい!デキる!
って感じが素晴しい~。好き~。

言うまでもなく当たり前に、天下のNHKの中の人たちなんだから、優秀なのね、
みなさんね。だから面白いんだな。

この頃は、大河といい、朝ドラ「あまちゃん」といい、私はNHKのドラマや、
スペシャルだとか熱心に見てる。あさイチも見てるよ。PRさんのゆるいツイート
も楽しみに見てる。NHKと友達になった気分かも。
どんな組織でも企業でも、ほんとうはそれぞれにいろんな中の人がいて、いろんな
面白いことがあって、たんなる消費者の私にもおもしろいともだちになれることが
あるんだろうと思う。それをすごく上手くPRして見せてるのがこのアカウント
なんだなーと思った。
「広報」のお仕事ってこういうことなのかな、と、ゆるく、でも真摯に書かれた
この本で少しはわかった気になる。うまいなあ。面白かった。


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『極道はスーツがお好き』(中原一也/イーストプレス AZノベルズ)

『極道はスーツがお好き』(中原一也/イーストプレス AZノベルズ)

テーラーえのきだ を引き継いだ二代目、榎田は芦澤というヤクザに
難題をおしつけられていた。借金の2000万を帳消しにしてやるかわりに
芦澤が満足するスーツを一着つくること。その仕上がりまでの間、愛人に
なること。突然の借金を返すあてもなく、榎田はその条件をのむ。

てことで、愛人だからってことでいろいろやられてついに。という。
BLあるあるみたいなのがいっぱいだーと思った。楽しい。綿棒ねえ。
たいへんだ。
2006年の刊行。それからシリーズが続いているみたいで続きも
読んでみたい。

えろしーんも楽しかったけど、スーツづくりのあれこれも結構丁寧に
描かれていて楽しい。スーツが似合う男いいよねー。いいよねー。
無口で有能そうな部下木崎さんの因縁とかもいいよねー。でもそれに
してはあっさり解決した気が。いいのかそれで木崎さん。
まあ実際は八つ当たりだし、芦澤にお仕えするのがまんざらでもない
ってことになってきていたのだ、ということなの、かなーと思うけど。
今後もうちっと描かれることはあるんだろうか。

シリーズ化って決まってはじめたわけではないのかな。一冊にぎゅうぎゅう
詰め込んである感じ。盛りだくさんで面白かったけど、あっさり解決して
しまうのね、というのは物足りない。仕方ないかなあ。
今のところどのキャラもステレオタイプ。可愛いけど好きってほどでも
ないー。続き読めるかな。迷うところだ。

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『消滅のリスト』(五條瑛/小学館文庫)

*具体的内容、結末まで触れています。


『消滅のリスト』(五條瑛/小学館文庫)
 
ひっそりと、ある会議が開かれた。参加者は多いわけではない。だかそこで
世界の平和への道が定められる。
 
雑誌連載からいきなりの文庫みたい。かなり分厚い。読み応えたっぷりで満足。
基地のある街。兵隊が大好きな女。ささやかな情報のやりとり。それが大金に
変わる可能性、それを守ろうとするもの、奪い取ろうとするもの。
結局誰がどう得をするんだ? と、最後までハラハラして読んだ。面白い。

日本はスパイ天国だとか、今きな臭いのは東アジアだとか、どのくらい本当
なんだろう、いや小説だし、と思う。冷戦後、中国こそが巨大なもう一つの
勢力であるのは間違いないし、米軍を抱えて日本は何やってるんだろうなあ、
というのがこわいような平和ボケでいいような。よくはないのか。

一人うまいこと立ち回るバードはかなり魅力的。
帯津さん、最初は女性ってわかんなくてその辺のミスリードもちょっと
面白かった。五條さんの手法としては珍しい気がする。ジゼルというニューハーフ
スパイのキャラもなんか面白い。とんだドジっ子ちゃんだけど、180超えで
迫力の美女風で武術もそこそことか、絵になるなあ。

沖縄とか広島。港町の関根とか。虚構と実際と混ざっていて、現実との
バランスが不思議な感じがする。もちろんフィクション。小説の世界。
世界の平和のために、犠牲として差し出す、滅ぼされてもいい都市を予め
選定しておく、というアイデアは、合理的なようにも思わされるのがこわい。
どーなんだろうなあ。冷戦時代にはありえたのか? いや、ないかー。ないわー。
うーん。
でもそんな重大事が、ちっぽけな個人の歪んだ恨みでどうにかされてしまうかも、
というのは、なんかありそうでこわい。最後のネットストーカー的大地くんの
逆恨み、全く理不尽な妄想で、データが勝手にひっくり返されてしまうかも、
というこの後味の悪さ。
どんなに合理的に理性的に進めようとしたって、人間が関わる限り、不測の
事態は起こりうる。こわい。やだなあ。

あちこちに散らばってた謎や人物のつながりが見えてくる終盤のたたみかたは
相変わらずお見事。でも単純にすっきり解決!しないのもさすが。
エリーさんたちはなんとなくうまく納まった感じだけど、他はなんだか、
すっきりできてないよねえ。でもなにもかもすっきりしないんだよ、という
話で、ああ世界の平和って。と思う。
これは単発ものかなあ。今回大好きに惚れてしまうキャラはいなかったけど
やっぱりとっても面白かった。満足。

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映画「マジック・マイク」

*具体的内容結末まで触れています。

映画「マジック・マイク」

建築現場で出会ったマイクとアダム。アダムは19歳。ろくにバイトも
続かないぼんやりとした青年。姉と暮らしている。
夜、クラブに入りたいアダムに偶然会ったマイクは、女の子受けのいい
アダムをそのままもう一つの彼の仕事に誘う。
男性ストリップのダンサーとして勢いでデビューしたアダムの面倒を
みながら、マイクは次第にアダムの姉、ブルックにひかれていく。

男性ストリップですって。きゃ~。と見に行きました。
人気ダンサーマイクを演じるチャニング・テイタムが昔実際その世界に
いたことがあり、その経験をもとに映画つくったらしい。ソダーバーグ監督、
チャニング・テイタムは製作にも関わった、とか。
アダムのほうが彼のことなのね。若くて、なんにもわかんなくて、ただ
イカレタことをやってみたくて、金と女があって若い男の夢が全部叶うような
気分になって。
マイクは、30代になってる、ってあたりなのか。メインダンサーとして
大人気みたいだけれど、ストリップダンサーのままでいいのか、共同経営者に
なりたいとか、夢はオリジナル手作り家具屋さん。そのための融資を受けよう
としているけれども、査定に通らず、真面目なブルックにはまっとうに相手に
されず。一夜の遊びの女性には不自由しないけれど、ちゃんとつきあうには
いたらないとか、微妙にお悩み多きお年頃って感じ。

アダムの無謀な若さの青春ストーリーでもあり、マイクのその世界の頂点にいる
かに見えて陰りのほうを意識しはじめた成長物語でもあり、というところかな。
でも物語としては、まあ、これといってすごいひねりがあるとかでもなく。

メンズストリップよ~。きゃ~。マッチョナイスバディ~~!!!
というのはかなりたっぷり大サービス(笑)上半身はもちろんお尻もたっぷり
でした。鍛えてるなあみんな。
マット・ボマー出てる~、と期待したけれど脇役で、露出はあんまりは多くなくて
もっと見たい~!と思った。
チャニング・テイタムのダンスシーンはなかなかの迫力。
アダムをやってたアレックス・ペティファー、登場時のぼさーっとした感じとか、
トラブルでいきなりステージに出されて、とりあえず脱げ!歩け!とかで
ふっつーの、パーカー、Tシャツなんか、下着も色気も何もないのをとてとて
歩いて脱いで、ってやってるのがとても可愛かった。
売れっ子になっていってからも、やっぱり弟キャラで可愛いの。

しっかし、最後、マイクはストリップやめていくの、かな。ブルックとつきあって
これからまっとうに生きるのかしら。オリジナル手作り家具屋さんやれるといいねえ。
で、アダムが俺がナンバー1になるぜ!ってことみたいだけど、大丈夫なのかアダムよ!
と、つい姉目線で心配なまま終わってしまった。まー可愛い。

ショーを、なんならずーっとショーを見せてよ!って感じだけどww
鍛えたマッチョバディ~は、セクシーダンスしてても淫らって感じはしなくて
あーアメリカだ~ショーなんだな~と思う。まさに飲んで騒いでひゅーひゅー!
しながら見るのね。まったくもって健全でした。
私の期待が変態すぎるのねと反省した(笑)

酒とドラッグでヘロヘロみたいなのもあったけど、それもなんか健全なよーな
錯覚をしてしまう。西海岸!海!太陽!みたいなイメージが強いからかな。
明るい映画でした。楽しかった~。

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『リヴィエラを撃て』上下(髙村薫/新潮文庫)

*結末まで触れています。

『リヴィエラを撃て』上下(髙村薫/新潮文庫)
 
IRAの活動員だった父を亡くしたジャック。自らもいつしかテロリストの
道に踏み込む。
少年時代、近くに住んでいたピアニストのノーマン・シンクレアと親しく
なるが、シンクレアもまた、ただのピアニストではなかった。

かつて亡命中国人が持ち出した謎の重要書類。それを巡る国家の秘密。
スパイのコードネーム「リヴィエラ」。鍵を握るはずのその人物を追い、
日本でも事件が起こる。

髙村薫の書き下ろし四作目にあたる、そうです。デビュー前年の、最終選考に
残った作品のタイトルが『リヴィエラ』だったそうで。もちろんその後大きく
書き直しての本書ということみたいです。
ル・カレの影響っていうのが濃厚、な気がする。たぶん。
そもそも舞台がロンドンとかだし。アイルランド紛争とか。でも濃密に個人
の物語である。

もったいなくてじわじわ読んでいたらだんだんもう謎もなんもどうでも
よくなってきてしまう。面白くて一気読み!というよりは、じわじわと人物
それぞれの人生そのものに寄り添うように読んでいってよかったと思う。

シンクレアとダーラム公の幼き頃とか妄想しちゃったりしてたまらん。
ジャックとシンクレアももっと違う人生の中で出会えていたら、と、切なく
なる。でも、そしたらこんな思いを抱くことはなかったのか。それでも
魂がひかれあうものだったか。
文章は硬質で冷たくそっけなく淡々としているのに、立ち上る色気は一体
どういうわけなんだろう。髙村薫の世界は凄い。
映像化にいつも失敗してしまうのは、ストーリー追うだけじゃてんでダメ
で、そのストーリーもかなり壮大だったり入り組んでいたりで。しかも
この書いてないのに濃密すぎる切なさ色気、堅牢なようでいていまにも崩れ
そうな危うさ儚さ、そういうの映像表現にしうる監督に出会えないからだと
思う。かっこよく映画化してほしいけど、無理なんだろうなあ。

シンクレアとダーラム公の最期は幸福だったのだろうか。ぼろぼろになって
も、互いを目の当たりにしながら死ぬのは幸福だったのではないのか。
日本でひっそりと死んだジャックは。ジャックは、哀しいなあ。日本なんか
でどうにかできたとは思えない。
どこにも所属できなかった手島を繋ぐのが養子に迎えた子ども、というのは、
うつくしいようだけれども、でも、あまり希望でもない気がするなあ。
いつかジャックの話をするのか?どんな話を聞かせるんだ。何も聞かせない
のか。シンクレアのピアノは聞かせるかな。哀しい。

結局、リヴィエラについては幻のほうが大きくて、長年のうちにそれを巡る
人の物語のほうが大きくなりすぎて、真相を語られてもなんだか、なんだか、
なんか、そっか、くらいな感じ。
そしてこの小説の後の、香港は返還され、密約のなんだかんだも、今はもう
遠い昔のこと、という、読み終わった後の気分はなかなか素晴しかった。

この小説の単行本は平成4年で、この文庫は平成9年。二十年ほど昔かあ。
時代当時なら緊迫感がもっと切実に何かあったのかもしれない。今読むと
歴史ものっぽい気分が勝つ気がする。それでも、十分に締め付けられる緊張感
はある。スパイ、という存在が冷戦だとか国家間のものだったなあと思う。
今はスパイというよりテロリストだよね。国家間というより国家と個人の
ような。
時代って変わるんだなあ。

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