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『箱の中』(木原音瀬/ホリーノベルズ 蒼竜社)

*具体的内容、結末まで触れています。


『箱の中』(木原音瀬/ホリーノベルズ 蒼竜社)

何もやってない。痴漢なんかやってない。冤罪を訴え続けた堂野崇文は
無罪にはならず、実刑になった。刑務所で十ヶ月。ごく普通の市役所勤めの
三十男。周りの犯罪者が怖い。孤独な彼に取り入った男にさらに騙され、
精神的にもおかしくなりかける。
そんな中、ぼんやりしているだけの男と思っていた喜多川が、不器用
ながらも、少しずつ助けてくれるのを感じる。
「ありがとう」というだけで、やけになついてくる喜多川。この刑務所の
中だけでのつながりだった。

「箱の中」と、「脆弱な詐欺師」、あとがきにかえての「それから、のちの」
というお話。
刑務所の中で堂野くんが病んでいくおかしくなっていく感じがじわじわと
こわかった。淡々と描かれているのが余計怖くて。木原さんはナチュラルに
ずいぶんひどいことを描くんだよなあ。
喜多川が堂野にするのも、公開レイプみたいなもんって、それ、えーとー。
箱の中にしてもずいぶん酷い。でもそこが微妙に麻痺している堂野くんの感じも、
なんかそういうものかなあ、と思わせるのが凄い。こわいわ。

喜多川は28歳ながらとても子どもっぽい。育ちが痛い。辛い。教育はろくに
受けてないと。大きな子ども。あるいは大きな犬。動物に近い、ただの生き物
な感じ。
芝さんがあんな執着が愛なのか? というような台詞があったけど、ほんと
それは愛なのか?と、よくわからない。愛、かなあ。でも愛じゃなきゃ何だ。
あのー、ひな鳥が最初に見た動くものを親と信じてついていくみたいなもん
じゃないのか。最初にまともそうな親密さを見せてくれた相手を愛する。
他に、誰もいなかったんだ。と、心が重くなる。
他に、何もない。他に何もいらない。堂野だけが欲しい、と、その執着は、
愛なのか。愛でいいのか。それでいいのか。

出所後、ひたすら堂野を探してもらうために興信所にお金払うために
働いて働いてお金かせいで。それ全部つぎこんで。騙されても気づかない。
喜多川のイノセントさは無自覚な暴力みたい。まわりの他の人間が勝手に
傷ついてしまう。

カモにしてやろーとする探偵も単なる小ずるい男で、まさに脆弱。愚か。
悲しい。
全部辛い。心が重くなる。
喜多川は堂野を見つけ出し会いにいくのかなあ。行くんだろうなあ。
そして、堂野はどうするのかー。喜多川をあんなに懐かせておいて、でも、
それ、堂野が悪いってことでもないし。外に出たらもう、っていうのも、
堂野が悪いってことじゃないし。辛いなあ。
続きがあるんだよね。読むのこわくて楽しみ。

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