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『ちょっとピンボケ』(ロバート・キャパ/文春文庫)

『ちょっとピンボケ』(ロバート・キャパ/文春文庫)
 
ニューヨークで、有り金はあと5セント、というある日、キャパは
手紙を受け取った。コリアーズの編集部から、戦争報道写真家として
緊急に雇い、英国へ出発して欲しいというものだ。前渡金1500ドル
の小切手も同封されている。

というところから始まって、キャパが第二次世界大戦の戦争の写真を
撮る日々の手記。

 「1913年、キャパはブタペストのユダヤ人の家庭にアンドレ・
 フリーマンとして生まれる」(文庫版あとがき)

この本の始まりはニューヨークからで、そこでなんとか出国のための
パスポートを手に入れなくては、と奔走しなくてはならなかったりして
なんだかいきなり大変である。それからもずっと戦地をめぐり、その度
に書類関係でもめたりごまかしたりすり抜けたり。
さまよえる人だったんだなあと思う。地に足がつかない感じ。どこに
いても異邦人な感じ。それは5つの戦場をめぐり常に旅の中にあると
いうキャパのイメージそのもので、でも、それはこちらの思い込みかなあ。
 
文章はもともとは英語みたい。でも後記によるとキャパのはどこか独特
だったような感じ。母国語ではなく獲得していったということなんだろうか。
翻訳でそのスタイルを現すのは大変なのだろうなあと察する。
それでも、面白い文章だと思った。

微妙にわかりにくさがあって、すっきりすいすい読める文章じゃないと思う。
そもそも私がキャパと同時代人ではないので、たぶんキャパが書いている中
で当然のことになっている世の中の感覚がわからないということもあるだろう。
なにより戦争についていって、そのめまぐるしい移動の地理感覚距離感覚と
いうのが、私にはピンとはこない。
戦争だけど、なんかこう、酒や煙草くれくればっかりだなーキャパも兵士も。
あと女の子と仲良くなることね。
ちょっとしたユーモア。ちょっとしたはにかみ。切ないロマンス。
そして戦争。
 
落下傘部隊といっしょに飛び降りて写真とるって、その最前線っぷりが凄い。
もちろん怖いだろう。手は震え、一度引き返したらもう前線になんか行けない。
なのに、もう一度やるんだなキャパは。
首になって困る、というとこもあるんだろうけど、なんで、行けるのかな。

兵士は、なんで行けるのかな。
もちろん訓練受けて命令受けて行くのだけど。でも、戦争を、なんでできるの
かな。平和ボケしか知らない私には分からない。

この戦争って、まだ国家という巨人が、肉体持って生身でガツガツ殴りあって
いるような手ごたえがある。そういうのを、読んでいて感じる。
作戦行動前に嘔吐する兵士。それでも出撃してゆく兵士。死ぬ兵士。

その中へ、戦闘ではなく写真を撮るためにゆく男。なんでそこへ行けるのか。

すっきりきっちり整理されているわけじゃない文章だけど、面白い。
盛り上げるような大袈裟さは全然ない。大変なことが起こっているのに、
現場の人間は、目の前のことでいっぱい。戦争が日常になっているあっさり
した感覚。ファシストは明確に敵。連合軍、米軍はヒーロー。
軽いわけではない。戦場に疲れ嫌悪し自己嫌悪し、苦しんでもいる。でも、
すっとそこに蓋をしてまた出てゆくような感じ。魅力的だと思った。原文で
読めたらもっと感じることができるのだろうか。なんだか不思議です。

映画みたいだ。いや、こういう事実から映画ができたのだ。

フランス解放の熱狂とか。そこでファシストに協力したからと頭を刈られる
女性。今の、私の目から見れば、哀しいことだけれども、当時その場の状況
としては、当然の報い。
私は平和ボケしかしらないぬるい命しか知らないと思う。
もちろん、時代というものは、どうしようもないことだと思う。

序文や、後記などなどにもキャパの死を悼む人々の思いが込められていて
キャパを知っているわけじゃない私もまた、大事な友達を失った気持ちに
なる。とてつもなく魅力ある人だったのだろう。
読んでみてよかった。
また、写真を見たいと思う。

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