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映画「かぞくのくに」

映画「かぞくのくに」

北から、病気治療の「任務」として、三ヶ月だけ非公式に日本に帰ってきたソンホ。
25年ぶりの帰国を迎える家族。
言葉少なく、監視役もついているソンホとは、なかなか自由に話もできない家族。
それでも、兄が大好きなリエはささやかな同窓会や買い物にソンホを連れ出す。

脳腫瘍の検査結果によると、三ヶ月だけではとても治療できないと言われる。
それでもなんとか、別の医者にかかろうとしている矢先、突然、北へ帰国するよう
命令が下る。三ヶ月のはずなのに、突然。拒否はありえない命令として。
引き裂かれる。ただ、見送る家族だった。
 
井浦新がまたなんかとっても儚い感じだなあ、と予告を見ていて思った。
でも、とてつもなく苦しそうだと思って、見に行くのをためらっているうちに
近くにきたので、やっぱり見ておこうと思った。

新は、ほんとうにやっぱり儚くて、静かで、闇を、苦しみを激情を抱えながらも
虚無だった。透明で。すべてを押し隠して消えてゆく兄だった。
一度だけ、父に「あなたにわかるわけないっ」と叫ぶけれども、その後何も言わず
ただ自分を抱えて感情を押し殺している様がたまらなかった。凄い。
北の人、なので、少しもおしゃれじゃなくてただもっさりした格好をして猫背で、
なのにやっぱりきれいだった。素晴らしい。
最後のスーツ姿のうつくしさ。帰ってきた日に外したのに、またつけた胸のバッヂ。
苦しい。
 
妹を安藤サクラ。彼女もほんとに、ふつうー、ふつうーにお兄ちゃん大好きな妹で
ふつうーに女性で、女の子で、兄を大事に思い、兄たちの世界をわかんないよ、と
時に攻撃的に、そして泣いてしまうしかなくて、そういうふつうに辛いひとり、という
のが素晴らしかった。

新がお兄ちゃんだったらお兄ちゃん大好き大好きになってしまうわそりゃ。
 
在日、という立場。北を祖国、と思う信条。それでも日本で地道に暮らしている家族。
たったひとり、少年だったソンホを祖国へ送り出した家族。
ソンホ、16で北に渡ったんだって。それから25年。脳腫瘍、北の医療では治せず。
「かわってやれたらねえ」という母の気持ち。
突然の北への帰国に、身支度を整える母。監視役の男にも、身支度を、いくばくかの
心づけを、用意する母。息子のためにできる、息子を守るためほんのわずかでもよい
環境で生きられるように、と、母にできる精一杯のことがそれ。切なくてたまんない。
またたった一人で送り出すしかないかぞくの思い。

説明やセリフがほんとうに最小限に抑えられてて。そして役者みんな、全身ちぎれる
ような思いを、ぐっと抱え込んだ静かな演技で見せてくれて。
やりきれない。
どうしようもなくやりきれなく切なく苦しく。
終わったあともしばらく戻ってこれない重さの映画だった。
 
夏の数日、のお話だけれども、光も色もとても抑えられていた。閉塞感。
私は少し歩いて、今日はとても天気がよくて、青空で光と風と、色を浴びて帰った。
花の写真をとって、甘いおやつを買って帰った。
帰って珈琲を淹れた。かぞくと離れてはいるけれども、帰りたければ帰れる。
 
やりきれないね。
 

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