« 『ルーノ』(大辻隆弘/砂子屋書房) | Main | 『一匙の海』(柳澤美晴/本阿弥書店) »

『汀暮抄』(大辻隆弘/砂子屋書房)

『汀暮抄』(大辻隆弘/砂子屋書房)

著者第7歌集。
2006年から2010年までから選ばれた350首、だそうです。
著者40代後半というところでしょうか。

あとがきにあるように、身近ないくつかの悲しみがあり、とのことで
家族や親しくしていた人の死の歌が多い。
身近な家族の死、というのは私にも経験あり、あるいは家族でなくとも
知る突然の訃報、というのも経験もあり、そういう出来事を著者は実に
誠実に丁寧に細やかに歌にしている。
たぶん百万回言われていることだろうけど、自然描写、細部を見る目、
それを歌にする言葉の巧みさ、本当に沁みてくるうつくしさだ。
自然や旅の景色などなどの歌はどれもうまくて好き、って選びきれない。

ところで私は、あまりひとの最期のこと、それにまつわる歌を読みたく
ない。歌、凄いなあと思いながらもでもでもでも私は読みたくない、と
思う。家族の死とかねー、私、言葉にできないんだ。もう時間は随分
たっているんだけれどね。
読むとやっぱりいいなあすごいなあと思うけど好きとは思えない。これは
完全に私の側の個人的問題だな。

先日『ルーノ』を読んだから勢いでっとこっちも読んでみた。
やはり年齢を重ねているせいか、そして題材的なせいか、変化している
のだなあと思う。
『ルーノ』の頃はどうしたってやっぱり自分自分のことが多かったと思う。
こちらは、人のこと、自然のこと生徒のこと、だったりしている。
若さって自分のことで精一杯かなーと思う。年をとるって、人に責任を
持つってことかなーと思う。

ロマンチックで甘い歌は減ったものの、自然描写の歌のやさしさに
愛しさがにじむようで、こういうやわらかさはほんと大人で素敵だ。
んでも時々、社会詠的なというか、鋭いところもあって、ドキッとする。
たまにあやうい気持ちにもさせらられるけど、そういうのもいいな。

いくつか好きな歌。

  くさかげの雫にふるふミカエルは天使第九階梯の第八 (P12)
  大天使ミカエルその他もろもろの跳梁したる秋のなかばは (P12)

何故いきなりミカエルなんだろう。でもきれい好き。跳梁って、悪霊跋扈
みたいなイメージが私にはある言葉なんだけど、面白い。

  白墨といへば初冬の匂ひしてやさしく曲げてみる文字の肩 (P47)
  やや遅き梅のひらきを寂しみて父は昨日のことばかり言ふ (P53)
  やや遠くなりたる耳をわが声にかたぶけ寄せて聴きたまひきに (P156)
  山鳩が中途半端に鳴きやみてそののち深き昼は続きぬ (P180)
  青古たる柘榴といへる比喩ひとつ思いつきたれど使ふすべなし (P184)
  トゥイントゥインと音の卵を産み落とす警報機あり夜の草はらに (P190)
  暗黒に脚を浸してゆくことのときめきに似て階をくだりつ (P191)
  いつせいに解答用紙ひらかれて風ふく朝の野をおもひたり (P193)

「柘榴」の一連は、柘榴のことをひたすら歌って13首かな。凄い。
そして「使うすべなし」っていいながら歌にしてますやん、とつっこみたい。
比喩に使えなかったってことなんでしょうけど。
「音の卵」というのがとても好きです。

  腋に触らるるやうにくすぐつたからうよ月の光を感じて竹は (P66、
  触 ルビ、ふ)

これはとても可愛い。とても美しい景色なのにとても可愛くできていて
好きです。
面白く読ませていただきました。


|

« 『ルーノ』(大辻隆弘/砂子屋書房) | Main | 『一匙の海』(柳澤美晴/本阿弥書店) »

「短歌」カテゴリの記事

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



« 『ルーノ』(大辻隆弘/砂子屋書房) | Main | 『一匙の海』(柳澤美晴/本阿弥書店) »