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『ルーノ』(大辻隆弘/砂子屋書房)

『ルーノ』(大辻隆弘/砂子屋書房)

タイトルはエスペラント語で「月」。宮沢賢治の詩篇かたとったとのこと。
著者第二歌集。1993年刊。
1989年から1992年までの間、著者28歳から32歳の時期の歌だ
そうです。

さて当時短歌界は、ライト・ヴァースのあとニューウェーブというのが
流行っていた頃、でしょうか。私が短歌に興味を持つ前のことで、全然
その頃のことは知りません。
ごくざっくりとネットで見た感じ、荻原さんが「ニューウェーブ」と名づけた
のが1991年らしい。『新星十人 現代短歌ニューウェーブ』という本が
出たのが1998年。その本でまとめられるくらいに若手(?)が活躍して
きていたのがちょうど90年代初めってことなんでしょうか。たぶん。

大辻さんの歌は文語旧仮名のとても端正でうつくしくてうっとりものだと
思います。
そんな中ちょっとニューウェーブっぽいような感じなのかなーと思う歌。

  あがあが、と声だしながらカルピスの膜がはりつく喉を見せあふ(P49)
  ほつかほかかーぺつとの上に目覚めたるその名かんぴんたんのわたくし
  (P101)
  「超ヤバ!」はすなはち不可思議の意にて石上真一郎、答案をやぶる
  (P101)
  うるうるの月光液に涵さるるぬばたまの爪先のペディキュア(P127、涵
  ルビ ひた)
  
あくまで私の勝手な主観だけど、なんか似た感じの歌を連想する言葉選びな
気がする。イメージ的に。ニューウェーブって、でも実はあんまりよくわか
らないのだけれど。。。口語的だったりオノマトペの多用だったり、かなあ。
可愛いな、と思う。

中ほどにある、「徴候<KIZASHI>」は、集団朗読用とのことです。
哲学的というか記号やら意味やら。なんか懐かしい。こういうの流行った
なあという気がする。学生の頃にがんばって読もうとして、でも私には
わかったってほどのことはなくて。大辻さんは哲学がご専門なのでしたっけ。
集団朗読で聞くとどうだったのかなあ、と興味はある。けれど、詩として
読むのはちょっと私には全然わからない。このテキストもとに、朗読やると
して自分ならどう演出するかな、って考えてみるのは面白かった。
でもこれ耳で聞いて意味伝わるのかなあ。その辺が記号?意味?
やっぱり私には難しい。

歌集読んだ印象として、最初の方は「みづ」や「ひかり」が多いと思った。
そして全体的にリフレインも多いと思った。
後の方には妻がいて妊娠、子ども、というテーマになっていく。
生活的なことよりは観念的というか。絵とか音楽とか思想をうたう、という
感じ。そういうのがステキだなあ好きだなあと思い、自分の乏しい知識なり
に、連想広がったりするのは楽しい。
ちょっと上滑りに思うこともあるけど。

やっぱり、正当な感じのするうつくしい歌に憧れる。歌はうつくしいのが
いいなあ。そんなんばっかりじゃいられないのはわかっているけれども、
憧れます。

  目覚めよ、と呼ぶこゑありて目ざむればまだ手づかずの朝が来てゐる
  (P12)
地をあゆむ鳩が瞼をあはす時つかのまくらし真昼の庭は (P44)
  イ・リ・ア<そこにあること>つひに寂しきをこの熟れ梨は余る、わが
  掌に (P88)
  つきかげは細部にも射し陶片の青磁のいろの夜半のはなびら (P120)
  凍るやうな薄い瞼をとぢて聴く ジュビア、ジュビア、寒い舌をお出し
  (P124)

なんというか、とても切なく共感した歌↓。

  いまだから言はうか 保弖留海豚がいでたる秋のTOKIOの遠さ
  (保弖留海豚 ルビ ホテル・ドルフィン P92)

保弖留海豚は未来での当時注目の若手有志?の合同歌集ですよね。たぶん。
1987年に出たのかな。なんかこう、あー、と思ったのだろうなあ、と
勝手ながら想像。
遠いのだ。

終わりの方に、妻の妊娠、子どもの歌が出てくる。
それが、なんだかとても、妊娠、子どもを異様なものとしてとらえて
いるように思う。妊娠子ども、というのが私にとってわからないもの
だから、こういう歌を見て私が異様に思ってしまうだけなのかも。
実際子どももつ実感っていうのがこんな風なのか、著者にとっても
異様なことなのか、私の側の思い込みなのかわからないです。
でも単純に喜びとか可愛い可愛いとかではないのは確かだと思う。

  獣乳の腐る匂ひにつつまれて産み月に入る妻はねむりぬ (P138)
  プチトマト サラダの端に置くゆびの産み終へてまた緊まりゆく妻
  (P148)
夜の蝉が咒と啼く闇へ、ふたひらの薄き耳もつ子を連れてゆく 
  (咒 ルビ、じゆ P149)
  しろがねの和毛しづかにかがやける李のごとき吾子の陰見き
  (和毛 ルビ、にこげ 李 ルビ、すもも 陰 ルビ、ほと P155)

可愛いやさしい相聞的歌もやっぱり大好きです。

  滅びゆく鼻濁音「が」のやさしさを聞いてゐる夜、君とゐること
  (P15)
おそなつの夜店に妻が買ひ来たる押せばシャボンの玉を吐く熊
  (P119)

日付のある歌とか岡井風なのか?と思ってみたり。いろいろ面白く読み
ました。きれいな本でした。

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