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『一匙の海』(柳澤美晴/本阿弥書店)

『一匙の海』(柳澤美晴/本阿弥書店)

著者第一歌集。
2006年から2010年の作品を選んでの一冊。年齢的には
27歳から31歳に当たる、とのこと。
歌壇賞をとったものから、この歌集自体もいくつか賞をとって
らっしゃるようです。凄いなー。

のっけから一読、鋭い。怖い。
硬質。ガラスや氷のような感触の歌集です。鋭いエッジを突きつける
ような歌たち。世界にも自分にも向けられた鋭さ。

題材としては、父のこと、恋人とのこと、教師としての日々、生徒
との関わり、というところでしょうか。
そして短歌との関わり。詩について短歌について、くっきり言及して
いる歌があるのって凄いなあと思う。そしてそこに甘さが一切ない。

  定型は無人島かな 生き残りたくばみずから森を拓けと (P9 
  拓 ルビ、ひら)
  くりかえし覚悟問われる悔しさは闇をつつみて連なるつぼみ(P39)
  引用という牛乳のやわらかき皮膜にとわに守られていよ (P64)
  明け方に穂村弘の亜流来てぬたぬた冷めたうどんをすする (P72)
  「トモダチニナリマセンカ」という腕が歌の区切れにひしめいて
  おり (P72)

甘い短歌に容赦ないって感じがする。ひいた歌は短歌のことっていう
わけではないのかなとも思うけれど、こう、覚悟というか自身の厳しさ
を感じた。歌としてもはっとさせる鋭さがあって上手い。

恋人への歌も、甘やかな気分というよりは切なさ、求める寂しさを
強く感じる。甘くやさしいなあうっとり、という要素もないではない
と思うけど、クリーム的甘さではない感じ。恋人が理系な人、っていう
感じもちょっとストイックな印象で素敵なのかもしれない。愛しい。

  くちびるをわれの額に載せたまま髪の先まで眠るきみあり (P54)
  葉脈が試薬に染まるやさしさで忘れられてもいいよきみには (P56)
  蟷螂のみどりみだらにきみを食む想像をする職員室で (P61)
  あ/フリーズ/逢いた/フリーズ/いくらでも強制終了できる恋かも
  (P65)
  理学書の栞代わりにされている おととしのわたしからの手紙は (P88)
  実験用マウス殺める手技のこと眠るまぎわにきみは語りき (P125)

正直どの歌をとってもきりりと凛々しくてかっこよくってうまくて、
全部がいい、という感じ。
今日読んだ感じとして、好きだった歌いくつか。

  古書店に軒を借りれば始祖鳥の羽音のような雨のしずけさ (P9)
  鉛筆の記憶は悲し 手を得れば「愛されたい」と便箋に告ぐ (P12)
  軒先に並ぶほおずき選ばれることのなかった明日のために (P45)
  遠雷を わたしの父を社会から追ったすべての賢き者へ (P95)

この強さはなるほどー賞をとるのね、と納得です。凄い一冊だと思いました。
  

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