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『不可能』(松浦寿輝/講談社)

『不可能』(松浦寿輝/講談社)

  平岡は雨の日に地下にいることを好んだ。


と、この、平岡というのは平岡公威、三島由紀夫なのねということは
明記されてないまでもすぐわかるように描かれている。
現在も三島が生きている、という設定。あの事件、の後、死ななかった。
囚人となり、年月が過ぎ、解放されて80を超える老人となっている
今の平岡。
初出が2006年だから、えーと、三島って1925年生まれですか。
リアルな年齢設定だとすると81歳くらいな感じか。
実際まだ生きていることもありえるよなあ。

本人はもう何をするでもなく、財団管理をする人間にすべて任せて、
好みのそっけない家をつくり地下室をつくり、バーの雰囲気をつくり
人間はわずらわしいので、鏡と石膏像とを相手にし。
明晰だが、俗事からは遠くはなれて酒を飲みうとうとと酩酊し眠り。

こういう「老い」なのか、と、とても納得させらた。
私はまだ老いの実感というほどのものはないけれども、まあもう勿論
若さとはだいぶ遠くなっているわけで。
こういう「老い」に説得力があると思えるし素敵だ。。。とうっとり
する。

短編の重なり、という一冊で、ROMSという悔悛老人の会、という
のに参加、ってあたりからだいぶリアリティというよりはお話めいて
くる色が強くなってしまうけど。話としては面白くなるし盛り上がる。
謎めいた芸術家の卵、らしい、S…君がとても羨ましくなる。何者?
いいなあ。ときめいた。
すっかり枯れた老人みたいなこと言ってたくせに、やっぱり怪物な
三島、たいへん素敵でした。

この平岡に、私はどうしても岡井隆を重ねて読んでしまう。
講話かなんかで、この本の話をしていたのを聞いて、読んでみようと
思って読んだから仕方ないし、岡井隆も巨大な歌人、詩人、文学者と
して80を超えて、という存在だから。
脳内でのビジュアルはすっかり岡井隆。三島が実際年を取った顔って
知らないのでね。こんな「老い」って、素晴らしい。かっこいい。

6月に三島由紀夫のなんか映画が公開になるんじゃないかな。
井浦新が演じる三島由紀夫。どんな風になっているんだろうか。
物凄く楽しみです。
図書館の順番待ち、偶然によって今日読んだのだけれど、今日は
ちょうど寒い5月の雨の日。まさにこの本を読むのにぴったりの日
だった。最初の一文からすっかり引き込まれた。よかったです。

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