« 映画「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」 | Main | 映画「人生はビギナーズ」 »

『黄金を抱いて翔べ』(高村薫/新潮文庫)

*結末まで触れています。


『黄金を抱いて翔べ』(高村薫/新潮文庫)

北川に誘われて、銀行の地下金庫から金塊を盗み出すことに同意する幸田。
必要な人数を集める。綿密にたてる計画。
しかし、思いがけない障害が次々と現れる。

映画化されるみたいだ、というのを見たので、たぶんまだこれ読んでない、
と思って読んでみた。デビュー作なんですね。本が出たのが平成2年。
この文庫本は平成6年。二十年以上昔か。まだパソコンは企業のもので
携帯はない。登場人物の過去に濃厚につきまとう左翼やらなんやらの影。
デビュー作に作家の原点はある、というのをまざまざと思い知るような
濃厚な作品だった。
犯罪、過去、同性愛、キリスト教、虚無的主人公。緻密な描写。細部の
積み重ね。面白い。やっぱり濃密すぎて窒息して溺れそう。こんな完成度
でのデビュー作なんですね。凄い。

幸田くんがモテモテ。
春樹とかもうあぶなっかしくって。若者だから仕方ないのか。それにしても
てめーのせいでいろいろ大変じゃないか。
北川の妻子のあっけなさに圧倒される。
映画「アジョシ」を連想して、シーンがありありと目に見えて愕然とした。
なにもかもを突き放して書ききる凄味。
モモもあぶなっかしくて。それなのに幸田と寄り添って、それがまたもう
どうしようもなく儚くて危うくていきなり悲劇の予感しかなくて、そして
そうなんだけれども、感じてはいてもとてつもなく哀しかった。
野田もなんか大丈夫かーと思うし。
最後まで、一体みんな大丈夫なのかよ?と心臓が痛い思いだった。

じーさんもな。
父と子。
結局何も語り合ってない。何もわかりあってない。何も許さない。
普通さ、こう再会、出会ったわけだからさ、何らかのドラマなり感動要素
なりをちらっとくらい匂わせちゃうんじゃないの?そこを高村作品だと
こんなにも無機質に突き放しておしまい。凄い。

それでも、このラストはハッピーエンドといっていいような、開いた終わり
だと思った。モモはいないけれど。幸田がどう生きるのかわからないけれど。
幸田、でもこのあと死んじゃうのかなあ。うーん。
でも北川の手を握り返しているし。
生きて欲しいよ。
モモと、こころで、心の話をしながら生きて欲しいよ。


ところで関係ないながら、最近続けて読んだ黒川博行の疫病神コンビの話は、
同じ大阪が舞台でもからっと明度が違う。全然違う。
疫病神たちも犯罪みたいなもんだけれども、あっちはヤクザ。職業的に犯罪
が日常、で、命かけるようなことはしない。ま、結果的に命がけに
なっちゃってるけど。なにより大事なのは金儲け。命あってのものだね。
死んだら金使えなくなるもんね。
高村作品の場合は基本素人で、この一事に命賭ける、という切迫感と、
そうはいっても金儲けがどっか度外視されてゆく。幸田は北川の誘いにのる
けど、そんなに黄金欲しそうじゃないもんなあ。北川だってなあ。
高村作品はほんと濃厚でやっぱり読むとどっと疲れる。凄くよかった。
まだ読んでないのを読まなくちゃ。溺れたいと思う。

|

« 映画「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」 | Main | 映画「人生はビギナーズ」 »

「書籍・雑誌」カテゴリの記事

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



« 映画「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」 | Main | 映画「人生はビギナーズ」 »