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映画「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」

*具体的内容に触れています。

映画「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」

9・11。
あの最悪の日、学校から早くに帰されたオスカー。大好きな父は、あの
ビルの中にいた。

大切な、大好きな、大事な大事な家族を突然奪われる。
そんなのだっていったい、どうやって乗り越えたらいいんだ。

ありえないほどがんばってる!とキレるオスカー少年。彼はアスペルガー
症候群の判定テスト?を受けたことがある。判定はどちらとも出ず。
そういうのって物凄く辛いんじゃないかな。いっそ病名がついたほうが
楽だ、という気がする。わかんないけど。
自分のこだわりや興味の赴くことには凄い集中力や才能を発揮するよう
だけれども、おそらく一般的にはできてあたりまえのことをするのに
とてつもなく苦労しているみたい。
怖いこと苦手なことが山ほどある。ドアの外に出るのが嫌。橋を渡るの
がこわい。騒音が怖い。上を見ている人が怖い。もっともっともっと、
苦手なことが増えたのはあの最悪の日のせいであることも多いけど。
学校行くとか人と話すとか、辛いんだよなあオスカーくん。でもすごく
がんばってるんだよなあ。

オスカーは、そんな彼の個性を愛し大事に導く素晴らしい父が大好き。
母親だってもちろん愛してる。祖母もいる。オスカーは不幸な子供では
なくて、不自由なく愛されて育っている。大事にされてる。愛されている。
恵まれた子ども。でもだからって、彼の苦しみ哀しみを、乗り越えるのが
簡単になるわけじゃない。

哀しすぎて一年間入ることのできなかった父のクローゼット。
そこで見つけた謎の鍵。
父が残してくれたメッセージだ。鍵穴を見つけるんだ!と、唯一の手がかり、
鍵が入っていた封筒に書かれた「ブラック」というのが人名と信じて、
ニューヨークの電話帳ひいて片っ端からブラックさんを訪ねて回る。
父を知りませんか。鍵を試させてくれませんか。
外も人も電車も何もかも怖いのに、オスカーは歩き回る。パニックを落ち着
かせるためのタンバリンをいつも持ち歩いてるんだけど、それがすごい可愛い。
なんでタンバリンなんだ。でもそれが、彼の心の震え、かなあ。
シャリシャリ鳴って可愛くて切ない。

祖母のところの間借り人の老人。
喋れない、とのことで、老人からの会話はメモ。手のひらの「YES」「NO」。
最初は警戒しているオスカーだったが、自分が抱えている物語をぶちまけてからは
一緒にブラックさん探しの日々をすごす。
老人と少年っていいよねえ。クール。
オスカーが、母なんかにはいえないことを、こうして、ちょっと関係なさそうな
人にうわーっと喋るのは切ない。言えないこと。誰にも言わなかったこと。
話してもいい?
と聞くオスカーは切ない。
最後のほうでもね。
誰にも言えないことがあって、遠い、関係ない人にだから言えること。
怖くて怖くて叫んで壊して自分を痛めつけて辛くて辛くて辛いこと。

そして母親もちゃんとオスカーを見ていたことをわかりあうんだよね。
「もっと愛してる、って言うよ」といったオスカーは、やっと、自分の中の
嵐が過ぎていったのかなあ。その前のほうには母にはずいぶんなことを言ってた。
ちゃんと愛されてるから、愛してるって言えるね。

9・11の傷を、ニューヨークの街の人みんなが共有してるみたいだった。
大人たちがほんとうに魅力的だった。
もちろん親切な人ばかりじゃなくておっぱらわれたりちょっと怖いとかも
あったけれども、それでもみんな、大切な人たちだった。
父とのやりとりの細々したところまで、みーんな丁寧で素敵で素晴らしかった。

とーもかく、トーマス・ホーンくん。オスカー少年がすごく可愛くて可愛くて
美少年~。まつげ長くて青い目で、少年ならではーの、ひょろっと頼りない体
していて。走ってへんな動きしたりして。セリフも演技も凄い。憎まれ口も怖い。
男の子の物語だなあと思う。素敵だったー。

あの最悪の日。祖母がきてくれたり母親が帰ってきたりしても、あれは、ソファ?
カウチ?ベッド?なんかその家具の下に入り込んでて出てこないの。
動物みたい。
猫みたい。
なつく相手はパパだけだった猫みたい。
ちゃんと礼儀正しくもできるしするし、そうそう泣くわけじゃなくて自分の中に
こもる感じ。本当に繊細な男の子。
彼を見に行ってよかった。

9・11がテーマで、家族を亡くした男の子、なんて、もーあざといわ。泣かせる
んでしょ、と最初知ったときは思ったけど、「リトル・ダンサー」の監督と知って、
ちゃんと見に行ってよかった。スティーブン・ダルドリー監督。美少年発掘して
くれてありがとう監督。

私の駄目予想なんかはるかにはるかにふっとばしてめちゃくちゃによかった。
こんなん泣かされるわ。
これみよがしな感動おしつけはないのにぼろっぼろ涙が止まらなかった。
オスカーくんにはやっぱり生きづらい世界だろうけれど、きっと、大丈夫だね。

予告で、U2の音楽が流れていたので、使われてるのかなーと思ったけど、なかった。
そこは騙されたなー。

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